東アジアの文化や歴史に興味がある人、それらを研究している人なら一度は開きたい、熱量のすごいフリーペーパーがある。2012年から既に6号(と創刊準備号0号)を発刊する、『NARASIA Q(ならじあ・きゅう)』がそれだ。


東アジアの高齢化問題や、韓国整形事情を含め老化についての思想を紹介する「明日のエイジング(3号)」、食文化比較、特にビールやラーメンの味の分布図が目を引く「おいしいアジア(4号)」、和歌からアジアの歌謡曲まで扱い、民族音楽を中心としたディスクレビューが興味深い「うたうアジア(5号)」、論語から『ワンピース』まで多彩な視線で解説する「アジアのスゴ本116冊(6号)」と、多岐にわたる他では見られない切り口の特集を展開。
執筆陣には大学教授や研究者が目立ち、一見すると学術的でマニアックな印象もあるが、専門家ならではの論説と情報量に、目から鱗が落ちることもしばしば。また石川直樹さん、高野秀行さんなど(それぞれ4号に掲載)、旅好きにファンの多い有名作家のエッセイも登場することがある。

これだけ充実した内容で無料配布というのもすごいが、この雑誌を奈良県が発行しているというのも面白い。アジアと関係する奈良県の人や風土を紹介する記事もあることはあるが、特集ラインナップを見てもわかるように、直接奈良に関連する内容ばかりというわけではない。
いったいこの雑誌は何なのか? 制作・発行を担当する奈良県東京事務所知的研究活動推進グループにお聞きした。


――まず、『NARASIA Q』のテーマは?
奈良県では、平城遷都1300年を記念して日本と東アジアの未来を考える取り組みを続けています。『NARASIA Q』は、かつて奈良が抱いた国際色豊かな歴史や風土、地政的側面を参照しながら、日本と東アジアのよりよい未来の構築に向けて、魅力や課題を読解・発信する情報誌です。

平城遷都1300年といえば、イメージキャラクターの「せんとくん」がまっさきに頭に浮かぶが、ここから生まれたプロジェクトのひとつというわけだ。

――奈良と直接関係する内容ばかりではないが、奈良県が『NARASIA Q』を発行する意図は?
現在、世界ではグローバル化が進んでいますが、日本はかつて奈良時代にもグローバルな世界に直面しています。グローバル世界における日本と東アジアのこれからを、過去に学びながら考えることは大変意味のあることだと思い、奈良から日本と東アジアの展望を発信しようという考えのもと『NARASIA Q』を発行しています。もちろん奈良に興味を持って頂くため奈良の特集も掲載しています。


読者からは、「奈良県がこのような(日本と東アジアの未来を考える)取り組みをしているとは知らなかった」「大変興味深い内容で毎号楽しみ」と、好評だという。特に、6号は多くの本を紹介していることもあり、他号に比べて書店や図書館からの問い合わせが多かったそう。

『NARASIA Q』は全国公立図書館の多くに設置されており、バックナンバーを閲覧できる。奈良の啓林堂書店、大阪の紀伊國屋書店、東京の丸善書店などいくつかの書店にも設置されているが、配布分は無くなり次第終了。奈良県東京事務所知的研究活動推進グループに問い合わせ、取り寄せることも可能だ(要送料、1号は品切れ)。

次号について、「『多棲都市アジア』をテーマにアジアのさまざまな建築とランドスケープを特集します。
多様な文化や歴史や生活スタイルをもつ人びとが集まり棲まう"多棲都市"はアジアの未来に何を問いかけるのか? 7号は3月末発行の予定です。ご期待ください」とご担当。建築や都市計画に関心がある人にはたまらない、充実した一冊になりそうな予感だ。

平城の都・奈良を基点に、東アジアのこれまでとこれからをじっくり考えさせてくれる『NARASIA Q』。見かけたらぜひ手にとって欲しい。奈良県による東アジアとの交流事業にも期待しよう。

(清水2000)

※取材協力
奈良県東京事務所知的研究活動推進グループ
東京都千代田区平河町2-6-3 電話03-5212-9096
E-mail narasia@office.pref.nara.lg.jp