パリに住み、国際機関に勤めていた。
“自分の生み出す仕事には、圧倒的にリアリティがない”と感じて三十代も半ばを過ぎて「辞める」と決断する。

そして、バウルの歌を探す旅に出るのだ。
吟遊詩人の秘密の歌「バウルの歌」を追いかけたバングラデシュ12日間
『バウルの歌を探しに バングラデシュの喧騒に紛れ込んだ彷徨の記録』川内有緒/幻冬舎

『バウルを探して』(川内有緒・幻冬舎)の副題は「地球の片隅に伝わる秘密の歌」。
“バウルの歌”は、“ユネスコの無形文化遺産に登録されている伝統芸能”。吟遊詩人の歌だという。
バングラデシュに行った著者が、どこで聴けるか質問すると、こう答えが返ってくる。
「おそらく聴くことは難しいでしょうな。バウルたちはいつも移動しているから、どこにいるのかぜんぜん分からない」
さらに、こう付け加えられる。
「バウルとは……。何と言ったらよいかな。昔から祭や路上で歌を披露して生活をしています。何のカーストにも属さない人々です。いわゆる“アンタッチャブル”とでも言えばいいのかな」

バウルの謎


帯にはこう書いてある。

“世界遺産? 芸? 宗教? 哲学?
その歌には、今を生きるヒントが詰まっていた。
アジア最貧国バングラデシュに飛び込み、追いかけた12日間の濃密な旅の記録。”


バウルにはいくつかの謎がある。
・バウルの歌はどんなものなのか?
・「たいしたものじゃない」「大感激」「人生が変わった」等など、人々の反応が極端に分かれるのはどうしてか?
・暗号のような何かを暗示しているバウルの歌詞は何を意味しているのか?
・バウルの民はどこにいるのか?
・歌がポイントではないというのはなぜか?
・こどもをつくってはいけないという掟があるのはどうしてか?
・男女ペアで修行するというのはどういうことか?
・バウルは、身分とか性別とか、そういうものすべてを超越するような存在とはどういう意味か?
・「アンタッチャブル」な立場になってしまうのにバウルになる人がいるのだろうか?
などなど。

旅行代理店が見つけてくれた通訳アラムさんと「バウルを見つけるまでは“イキアタリバッタリ”。それでいいでしょうか」「そうです! それでいいです!」と対話、イキアタリバッタリな旅がはじまる。
「だいじょうぶだろうか?」と読んでるこちらが不安になるイキアタリバッタリさなのだが、読み進めていくうちにイキアタリバッタリじゃなければならなかったのだということが判ってくる。
バウルについての映画を撮った監督に会いに行く。聖者廟へ行く。バウルの聖地へ向かう。
バウルらしき人に出会いグルのところに連れていってあげましょうと言われる。
人から人へ、出会いが次へつながる。

だが「バウルの歌」の謎は、解明されるというより深まるばかり。
そして、後半になって(バウルの祭に潜り込む!)、それらの謎がある種のひとつの像を結ぶ。
本書が、旅をすることでしか見つけられない真実を手に入れるまでの「濃密な旅の記録」であることが判る。

第33回新田次郎文学賞受賞作、『バウルの歌を探しに バングラデシュの喧騒に紛れ込んだ彷徨の記録』というタイトルで幻冬舎文庫版が出ばかりだ。

6月20日、
「旅の本ができるまで」
というテーマで、『バウルの歌を探しに』の著者川内有緒さんに話を聞く。
場所は、池袋コミュニティカレッジ。ぜひ。(米光一成)
吟遊詩人の秘密の歌「バウルの歌」を追いかけたバングラデシュ12日間
『バウルの歌を探しに バングラデシュの喧騒に紛れ込んだ彷徨の記録』川内有緒/幻冬舎
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