かつて甲子園を沸かせた清原和博と桑田真澄は「KKコンビ」と呼ばれていた。実力・人気ともに高校野球史に残るもので、清原は甲子園ホームラン記録を、桑田は甲子園最多勝利記録をそれぞれつくった。
そしてプロ入り後も両者ともかなりの好成績を残した名選手だ。


【桑田と清原のイメージ】


ところで、みなさんはこの両者についてどのような印象を抱いているだろう。清原には週刊誌での薬物疑惑や「番長」と呼ばれた風貌などから悪いイメージを、桑田に対しては真面目な印象を抱いている人が多いのではないか。それもそのはず、引退後の桑田は特に、体罰否定等の発言・早稲田大学院での「野球道」研究・東大野球部でのコーチなど文句の付けようもない活動が多く、現在の清原とは大違いだ。
しかし、かつては清原よりも桑田の方がダーティーなイメージだった時代があった。なぜ桑田は悪い印象を抱かれていたのか、またそれらはなぜ良い印象に変わっていったのだろう。

【巨人入団時に密約が?】


桑田に初めにケチがついたのは、巨人入団時までさかのぼる。この件は現在では「KKドラフト事件」と呼ばれている。

ドラフト前、清原は「王さん(当時巨人の監督)の下で野球をしたい」と巨人を熱望し、対する桑田は早稲田大学への進学を表明していた。そのため、誰もが桑田の指名をどの球団も回避し、巨人は清原を指名するものだと思われた。しかし、蓋を開けてみると巨人はドラフト1位で清原を指名せずに桑田を指名したのだ。
結局、桑田は進学せずに巨人入団を果たし、清原は無念の涙を流しながらも西武入りした。このため、清原は被害者であり、桑田と巨人の間には「巨人に入るために進学を希望していると公言する」という密約があったのではと騒がれた。


【桑田真澄に対する暴露本】


野球賭博疑惑
そんな経緯での巨人入団であったが、エースナンバー「18」を貰って2年目には沢村賞を獲得するなど大活躍した。しかし、そんな桑田にまた大きな疑惑が浮上する。
そのきっかけは1990年に桑田と親交のあったスポーツメーカー社員が出した暴露本「さらば桑田真澄、さらばプロ野球」だ。この本の中には桑田がかなり汚い言葉で多額の裏金を要求するなど、言うのもはばかられる衝撃の内容が多い。その中でも野球賭博に桑田が関わっているのではという疑惑は各方面に大きな反響を与えた。

金品授受を認めた桑田
桑田が会員制メンバーズクラブの社長に登板日を教えたり、現金を貰ったりしていたと本書内で明かされた。これを受けて、桑田が野球賭博に関わっているのではないかという疑惑が浮上したのだ。
桑田は登板日漏えいと金品授与の事実を否定したが、最終的には金品の授受がなかったという報告は虚偽だったと明かして大問題に。
結果的に桑田は1カ月の謹慎と罰金1000万円の処分を受けたのだ(本来は1年の謹慎予定だったが、当時の巨人監督の直談判によって短縮)。文部大臣や当時総理大臣だった海部氏もこの件に言及するなど大きな波紋を広げた。

もうひとつの暴露本
さらに桑田は1989年にも、セクシー女優になるタレントから付き合っていた様子を本で暴露されており、野球賭博疑惑が桑田の悪いイメージに追い打ちをかける形になった。

【桑田は「投げる不動産屋」】


しかし、桑田のスキャンダルはこれで終わらなかった。今度は不動産投資に失敗して約20億円とも言われる借金を抱えてしまったのだ。
とはいってもこれは桑田自身が起こした問題ではなく、姉の元夫が「桑田真澄」名義で引き起こしたもの。だが、読売グループがこの問題の解決に動いたこともあり、桑田は週刊誌や他球団のファンから「投げる不動産屋」などと批判された。


【桑田の好感度が上がった理由】



ではなぜダークな印象だった桑田は現在に至るまで、好感度を上げることができたのだろうか。

安定した好成績
プロである以上、結果で非難の声は見返すしかない。成績を見ると暴露本が発売された1990年から、14勝・16勝・10勝・8勝・14勝と安定した成績を残している。特に優勝した1994年は伝説の「10.8決戦」で好投するなどの活躍でMVPを受賞し、まさに「巨人のエース」にふさわしい結果を残した。

大怪我からの復活
しかし1995年、充実した成績を残していた桑田にアクシデントが襲う。小フライをダイビングキャッチしようとした際に右肘を強打し、肘の靭帯を断裂してしまった。

選手生命が脅かされる大怪我だったが、2年後に「奇跡の復活」を果たす。この期間のリハビリは長く壮絶なものだった。ボールを投げられない期間が続いたが「下半身は鍛えられる」と桑田はただひたすらジャイアンツ球場で走った。桑田が走り続けた部分の芝は剥げ上がり、現在では「桑田ロード」と呼ばれ伝説となっている。

このように確かに桑田がダークな印象が強かったが、野球に対するひた向きな姿勢を見せ続けることでマスコミやファンの信頼を勝ち取ったのだ。
(さのゆう)
(「Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2012年 8/30号」)
(「Number PLUS 桑田真澄 完全復刻版」)
(「心の野球 超効率的努力のススメ」)