シェアリングエコノミーが急速に広がるマレーシア 配車アプリとシェアサイクルが生活に浸透

持たない暮らしに豊かさを見出す人が増えつつある昨今、シェアサイクルや民泊などのシェアリングエコノミーが注目されている。
マーケットリサーチ、法規制の整備……と最初から完璧を目指す日本に対して、東南アジアの企業は不完全ながらも商品やサービスを市場に投入しユーザーの声を聞きつつ改善、シェアを拡大させるスタイルを取る。
その土壌のおかげで、現地でのシェアリングサービスは日本以上に広がっている。
今回はマレーシアで、スマホアプリだけで完結できるシェアサイクルや配車アプリが、日常的にどのように使われているか紹介したい。


どこでも乗り捨てOKのシェアサイクルは若者を中心に急速に広がる


今年4月からマレーシアのクアラルンプール首都圏で始まったシェアサイクルが「オーバイク(oBike)」だ。
シェアリングエコノミーが急速に広がるマレーシア 配車アプリとシェアサイクルが生活に浸透

オーバイクのユニークな点は、サイクルステーションを必要としないこと。道路沿いや公共の駐輪場に停めてあるオーバイクを、専用のスマホアプリを使って解錠し、目的地についたら後輪を手動でロックするだけ。するとアプリと自転車がBluetoothで通信し、自動的に返却が完了する。

オーバイクは専用駐車スペース、または公共の駐輪スペースならどこでも乗り捨てができる。
価格は30分間0.50~1リンギット(約13~25円)と手頃だ。支払い方法は最初にデポジットを払い、使用した分だけ引き落とされる仕組みだ。アプリを開くと現在地周辺のオーバイクが地図上で表示され、10分間の予約機能もある。実際にその場へ行ったらもうすでに他の人に借りられてしまったということを防ぐためだ。
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車を使うほどでもない距離の移動や渋滞時に利用価値が高く、若者を中心に急速に広がっている、今や街のいたるところで見かけるようになった。ただしクアラルンプールは道路の構造が自転車フレンドリーに設計されていないため、大学構内、商店街、観光地で利用する傾向がまだ強い。


便利な反面、オーバイクとして貸し出されている自転車は、パンクしにくいタイヤを使うなど丈夫さを優先したつくりのため、若干重い。ギアもないためアップダウンが激しいエリアでは、使用が難しいという欠点もある。かごもついておらず、そこに不便さを感じるユーザーもいる。


通常のタクシーよりも好まれる配車アプリ


電車やバスなど公共交通機関が網の目のように発達している東京と比べると、クアラルンプール周辺はまだまだ車なしでは生活しにくい。このような状況のため、マレーシアではタクシーが多くの人に利用されている。価格も日本と比べて手頃だ。

日本でタクシーに乗る場合、乗り場に並んだり、流しのタクシーを捕まえたり、タクシー会社に電話して予約したりするのがまだ一般的だ。
今、マレーシアではそれら従来のタクシーより、「ウーバー(Uber)」や「グラブ(Grab)」といった配車アプリを利用して、タクシー代わりにする人が圧倒的に多い。
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ウーバーの配車は、すべてが一般人ドライバーにより運転される車である一方で、グラブは2種類タイプの配車から選べる。一つはグラブタクシーという会社と提携しているタクシーの車、もう一つがグラブカーという会社と提携している一般人の車だ。またウーバー、グラブともに配車される車の種別やドライバーを選択することができる。これら配車アプリは、どれも通常のタクシーと比べて「値段が分かり安心」「車や車内が清潔」「対応が丁寧」という理由で、急速にマレーシアで浸透した。

なぜなら、東南アジア圏ではメーターを使わないタクシードライバーがいるため、値段交渉をしなければならないことがあるからだ。
配車アプリを使えば、車が来るまでにかかる時間や値段が事前に分かり、乗客にとっては安心できる。乗車後の支払いは、その場で現金で支払う方法と、アプリ上に登録したクレジットカードでの決済から選べる。
シェアリングエコノミーが急速に広がるマレーシア 配車アプリとシェアサイクルが生活に浸透

マレー語ができなくてもほとんどのドライバーは英語で会話できる。配車時にはドライバーの顔写真、名前がアプリ上に表示され、乗車後もドライバーは客から5段階で評価されるため、従来のタクシーに比べて接客も良い(乗客もドライバーから5段階評価される)。小遣い稼ぎに空き時間を使ってドライバーをしている人は増えており、街中には客待ちの車が多いため、配車までに長時間待たされることはほとんどない。


法整備が追いついていない自治体ではトラブルも


すでに配車アプリについては、マレーシア国内では法整備が整えられている一方で、シェアサイクルについては現時点では対応に追いついてない自治体がある。

シェアリングエコノミーが急速に広がるマレーシア 配車アプリとシェアサイクルが生活に浸透

東マレーシアにあるコタキナバルは、マレーシア国内でクアラルンプール首都圏に続きオーバイクが導入された第2の都市だったが、今年の6月中旬、市内に配備されたばかりの自転車が市役所によってすべて撤去された。シェアサイクルが市の許可を取っていなかったためだ。

今年9月にも、クアラルンプール郊外のペタリンジャヤで自治体の運営許可を取っていなかったため、250台のシェアサイクルが撤去された。ただし現地ザ・スター紙によれば、自治体側もシェアサイクルは新しい取り組みであったため、自転車共有プラットフォームのライセンスを、申請できる仕組みを整えていなかったということを認めている。

ペタリンジャヤと同じく、多くの自治体ではシェアサイクルについての規制や免許がまだない。ユーザーは専用駐車スペース、または公共の駐輪スペースに返却するよう促されているが、ペタリンジャヤには駐輪設備がほとんどないことも問題とされている。
ペタリンジャヤは現在ガイドラインの草案を練っているとのことだ。

さらなるシェアサイクルの普及には、法的枠組みとサービスの提供、公共の場での適切な使用といったバランスが、今後さらに求められていくだろう。
(さっきー)