ロイヤルHDが変える「飲食店の働き方」 元日休業、24時間営業廃止の背景

ロイヤルホールディングスは、「ロイヤルホスト」「カウボーイ家族」「天丼てんや」の元日休業に踏み切ったほか、ロイヤルホストの24時間営業を廃止するなど、働き方改革で注目されている。またキャッシュレスの次世代型店舗を設置するなど、先進的な取り組みで話題だ。

この狙いについて、ロイヤルホールディングスの藤田敦子人事企画部長兼ロイヤルマネジメント取締役人事部長に話を聞いた。
ロイヤルHDが変える「飲食店の働き方」 元日休業、24時間営業廃止の背景
ロイヤルホールディングスの藤田敦子氏


外食産業の「当たり前」を見直す


――飲食店はほぼ毎日営業しているイメージがありましたが、今回の元日休業の狙いについて教えてください。

藤田敦子(以下、藤田)  元日休業の狙いは、「働き方改革」の位置づけが大きいです。外食産業は、イベント時やみなさんが楽しんでいる際に、一生懸命に働くことが常でしたが、今回の元日休業の措置は、国民の祝日にみなさまとともに休むことで日々の活力につながると考えました。
ただし、商業施設やホテルの中に立地場所がある店舗や一部、オーナーの裁量で営業した店舗もあり、全店一斉休業ではありません。

――今、御社や他社も含めて外食産業において元日休業への気運が高まっていることについてどうお考えですか。

藤田 今まで当たり前だったことを見直すことが重要です。われわれが、「外食産業は元日に仕事をするのは当然」ととらえていたことが、時代と共に変化し、変わってきていると思っております。
これから少子高齢化が進展していく中で、労働力確保の観点から見ても、立ち止まって価値観の見直しが必要です。特に、私は、新卒などの採用も担当しておりますので若者の働き方や考え方の変化も視野に入れる必要がありますが、ロイヤルホールディングスや他社が元日休業を決断した背景には、若者の思考の変化もあるのかなと考えております。

――私が大学生の時は、正月は休むことが常識でした。いつの間にか、365日毎日営業へと変化していきました。ここに違和感を持つ方も多いと思います。


藤田 たとえば、ヨーロッパの話ですが、日曜日はレストランなども閉めており、平日でも夜も早く閉店しております。ヨーロッパに行くわれわれがその働き方を見て、「なんでだろう」と特に疑問を持つことなく、受け入れていました。
そこで働き方を再考することが必要です。今までと同じように進めることではなく、IT化やシステム化を進展させることで、より働きやすく、生産性を上げていく視野に立って、働き方のあり方も変えていく必要があるのではないかと模索しているところです。


営業時間短縮、キャッシュレス化も目的はホスピタリティ


――そういうなかでロイヤルホストは2017年1月末で24時間店舗ゼロになりました。これについては。

藤田 実は2011年から、持続可能で地域の方々により愛される店舗づくりを目指している中で、営業時間の短縮も進めて参りました。ロイヤルホストは単なるレストランではなく、コックが一手間かけ、ホスピタリティに富んだ接客により、食だけではなく、心も満たされる店舗経営を目指しております。そこで、お客様がより多く来店されるランチとディナーの時間帯に従業員、パート・アルバイトをシフトし、徐々に営業時間を短縮し、24時間店舗がゼロになったのです。

――今回、多く報道された次世代型店舗運営に向けた新たな取組として「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」が昨年11月にオープンしましたが。

藤田 こちらの店舗はキャッシュレス化が話題になりましたが、あくまでそれは手段で目的はホスピタリティの深化にあります。今まで通りでは現場にさまざまな間接業務があり、お客様と向き合う時間が少なくなっていました。わたしどもの理念は、「日本で一番質の高い“食”&“ホスピタリティ”グループ」を目指すことを標榜しておりますので、そのホスピタリティをお客様に提供できる場面をより多く発揮できるかが重要です。
そこで店舗のバックヤード的な事務作業を省力化し、お客様と向き合えるような店舗を継続して研究・開発を行う店舗をオープンしました。
ロイヤルHDが変える「飲食店の働き方」 元日休業、24時間営業廃止の背景

――この店舗は実験店と考えておりますが、今後の展開は。

藤田 こちらは、研究開発を目的とした店舗ですのでチェーン店化していくことはあまり想定しておりません。ここでさまざまな研究や開発を行い、より働きやすい環境が作れるのであれば、部分的に既存の事業で展開していきます。この店は、低投資でコンパクトなお店ということでさまざまな立地に出店展開が可能ですので、私どもはプラットホームと呼んでいるのですが、そのプラットホームがある程度カタチになれば、あとはソフトの部分でさまざまなことが考えられるのではないかと思います。

――実験店の活用により働き方を総ざらいしているようですね。

藤田 お店の中の事務作業の簡略化や、お客様との接点をより増やして行くためになにを本部で行うべきかを見直しているところです。そこでITの再構築が重要で、全社横断的に検討しています。何を実施するかについてはなかなか言葉には明確にはできませんが、外食事業に限らずロイヤルホールディングスとしても未曾有の労働力不足時代に対して、IT化、ロボット化、電子化を念頭におきつつ、多方面でさまざまなことを考えています。どのように実現できるかがまだこれからです。いろいろと実験を繰り返しつつ、カタチにしていきたいと思います。


飲食業界につきまとう“ブラック”な印象を払拭


――飲食業界は“ブラック業界”との見方もあります。
これをどう払拭されていきますか。

藤田 「飲食業界は長期間労働である」と一般的に言われております。私どもでは36協定で時間外労働管理においてモニタリングをして、長時間働いている方を、いち早く察知し、手当てをするようつとめています。今、すべてに目が届くよう努力しているところです。
長時間労働はなぜ問題があるかという根本の理由ですが、健康に及ぼすリスクがあるということです。そこでロイヤルホールディングスは「健康経営」に取組み、「健康経営優良法人ホワイト500」の認証を受けているところですが、より社員が健康で働くことができ、生産性向上につながることを目指しています。
自主基準を設けておりまして、数年前から時間外労働80時間を超える方を対象に、保健師・産業医面談を行っています。国の法改正により、100時間を超えた方には産業医面談を入れるよう求めておりますので、この面談制度は継続いたします。
ただし誤解がないように申し上げたいですが、100時間や80時間の時間外労働は現在、まれなケースであり、ロイヤルホールディングスとしても時間外労働の是正については一定の成果が表われているのではないかと思いますが、継続した取り組みが必要です。

――ほかの「働き方改革」ではなにかありますか。

藤田 短時間正社員制度の導入を検討しています。つまりお子さんの育児や親御さんの介護などで、みなさん一時的にフルタイムで働くことのできない時期が訪れる場合もあります。
こうした環境におかれても持続可能に働けるシステムを目指します。

――短時間正社員制度についてはいつ頃実現しそうですか。

藤田 これは2018年度の行動計画に入っております。制度導入にあたっては給与計算や規約の整備が必要ですがそれほど時間をかけないで実施したいと思います。対象はグループ全体です。ロイヤルホールディングスではこれまで介護離職のケースは私の耳には入ってきておりませんが、これから先、介護や育児による離職の危機は、女性も男性問わず訪れます。

――これから人手不足はより本格化します。人材獲得競争は他産業との争いにもなります。この点について。

藤田 ロイヤルホールディングスとしては内部の「働き方改革」を整備し、打ち出していくことが重要です。今まで申し上げたことの着実な実行と、人事部の採用チーム内でもロイヤルホストが24時間営業店舗ゼロを打ち出したことや元日休業などの目に見える働き方改革をアピールすることで、学生にも印象が高くなる可能性があると話し合いました。先ほどから、言われております“ブラック”とのイメージが払拭でき、この業界で働きたいと思う人たちが増えればいいと考えています。


――ありがとうございました。
(長井雄一朗)
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