営業時間外のレストランをコワーキングスペースに NYノマド最新事情
「ケトルスペース」トップページのスクリーンショット

フリーランスや自営業の人にとって、居心地よく仕事ができるカフェなどの場所の有無は仕事の効率性を大きく変える。夜のみ営業しているレストランは、賃料を払いながらも日中の時間を収益源とすることができない。
そんな二つのニーズをマッチさせるニューヨーク初のスタートアップ「KettleSpace(ケトルスペース)」が、最近ニューヨークで話題だ。

ケトルスペースは、働き方の多様化がさらに進むニューヨークのノマドワーカーに仕事場を与え、同時に、レストランにとっては収益が入らない時間帯にも、新たな収入機会をもたらすというビジネスモデルを創り出している。


仕事に必要なものが気の利いた店内に全てそろう


筆者が最初に訪れたのは、フラットアイアン地区にあるレストラン。ここはスパイダーマンのロケ地にもなった、ニューヨークの摩天楼フラットアイアンビルの名前を冠したこのエリアだ。ニューヨーク市の中心でありながら、さまざまな店が並ぶショッピング街でもある。

ケトルスペースと提携するレストランは、一見するとテラスを完備した広々とした地中海系ダイニングだが、店の前のサインでこの店がコワーキングスペースになっていることが分かる。店内は落ち着いた雰囲気で、一人一人にゆったりとしたスペースが与えられている。
営業時間外のレストランをコワーキングスペースに NYノマド最新事情
レストランが昼はコワーキングスペースに

「ケトルスペースにサインアップしたら、私たちが契約しているマンハッタン地区内のレストランやホテルのルーフトップカフェなど、どこでも仕事場として使うことができます。もちろん追加料金なしで高速Wi-Fi、座席ごとの電源、飲み放題のコーヒーやお茶、スナック類は完備しています。基本的に朝の9時から夜の6時までをノマドスペースとしてレストランから借り上げているため、その間は好きな時間に出入りして働いてもらえます」(ケトルスペース担当者)

筆者が訪れた時間は人が少ない時間だったのだが、混みあっている時はどうするのだろうか。

「今のところ需給はちょうど良い状態で、混み過ぎているといった苦情は頂いていません。ただ、もし人がより少ない環境で仕事をしたいご要望があれば、コワーキングスペースのマネジャー同士が連絡を取り合って、より空いているロケーションをその場でご案内もできます。私たちの会社は立ち上がってまだ半年ですが、現在市内中心部に6カ所のテナントと契約していて、これからも拠点は増やす予定です」(同)
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ケトルスペースと提携したレストラン内で仕事をする人たち


他社コワーキングスペースとの違いは


一般のカフェやレンタルオフィスと比べ、ケトルスペースのようなサービスは使い勝手がいいのだろうか? 実際に仕事をしている人に話を聞いてみた。

「快適です。
私はライターなので、一度座ったらそれなりの時間集中して執筆したいです。混みあっているチェーン店のカフェなどは、コーヒーを一杯注文しただけで長時間居座るのがあまり快適でない場合もあります。他のお客さんは食事目的で来ていたりしますし」(リンジーさん/フリーライター)

「家で仕事はしたくないですが、レンタルオフィスで1席借りるのもそこそこ高いです。カフェで仕事をするにもコーヒーは買いますし、そう考えるとケトルスペースのようなサービスはリーズナブルです」(ジェイクさん/グラフィックデザイナー)
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ニューヨーク市内のスターバックスコーヒーの店内

ケトルスペースの使用料金は、使用時間無制限で月額99ドル(約1万500円)、月40時間までの利用で月額49ドル(約5200円)だ。例えば、米レンタルオフィス大手のWeWork(ウィーワーク)社が経営するマンハッタン地区のオフィスで、座席を1つ使うと月額450ドル(約4万8000円)かかる。マンハッタン地区のカフェではカフェラテの相場が4〜5ドル(約480円)だ。それを月20回買った場合は約90ドル(約9600円)。値段と環境を比較した相対的な利点はある。


新しいビジネスモデルを専門家はどう見る?


ケトルスペースは革新的かつ理想的なビジネスモデルのように見えるが、この業態は発展していくだろうか。レンタルオフィスの経営者にも聞いてみた。

「一般的なレンタルオフィス運営と比べると、ケトルスペースは運営会社自体がオフィスを買い上げたり、直接借りていない分、当初の必要資金が少なく済むビジネスモデルと言えますね。課題としては、利用者を獲得するための広告費が相対的に高額になるビジネスであるため、広告に費やした費用を回収するレベルの規模のビジネスにしないと収益性が上がらない点でしょう。
いくら非稼働時間といっても、レストラン側からするとトラブルの対処などを考慮した上での魅力的な条件でないと、貸すメリットが薄まるため、そのあたりの交渉と契約の整備が重要です」(オフィス経営者)
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飲み放題となっているドリンク類

新しいオフィスの形が次々と生まれるなか、同サービスは今度ニューヨーカーの選択肢として広がっていくのか。注目だ。
(迷探偵ハナン)
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