真海「これで私の計画はすべて終わりです。どうぞ、お引き取りください」

6月7日(木)放送の木曜劇場モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―(フジテレビ系列)最終話。

2時間スペシャルと聞いたときは「なぜ?」と思ったが、これが大正解だった。復讐収束のなだれ込むような勢いと虚無感とは、2週に分けては出せなかった。
最終回ディーン・フジオカ「モンテ・クリスト伯」やがて哀しき復讐。最後に愛は勝つ、だが少年の将来が心配
イラスト/Morimori no moRi

入間公平への復讐


モンテ・クリスト・真海(ディーン・フジオカ)の復讐はいよいよクライマックスを迎えた。

まずは入間公平(高橋克典)だ。真海は、公平に対して3つの復讐を用意した。
一つは、大切な娘の未蘭(岸井ゆきの)が毒薬を飲んで倒れたかのように見せかけること。もう一つは、公平と神楽留美(稲森いずみ)の隠し子であり殺人の容疑者・安堂完治(葉山奨之)の存在を世間に知らせること。最後は、妻・瑛理奈(山口紗弥加)の死だ。

追い詰められた公平は思いを吐露する。

公平「どこで間違えた。俺はただ幸せになりたかっただけだ。立派な人間になりたかっただけだ。あんな入間貞吉(伊武雅刀)のようなずるい人間にだけはなりたくなかっただけだ。
正しくて強くて愛のある、尊敬されるような人間になりたかっただけだ」

やはり、真海の復讐のターゲットは自分の罪を認めない。
娘は戻って来ないと思い込み、安堂との関係を世間に公表され、瑛理奈の死を目の当たりにし、公平は精神が壊れてしまった。死んだ瑛理奈と伏して地面を掘る公平を見つめる貞吉の目が悲しそうだった。

モンテ・クリスト伯の誤算


真海は、自分の計画にいくつかの誤算があったと言う。一つは、留美の存在だ。
留美は公平が安堂を殺してしまったことに気づく。22年前を繰り返すのように、公平は安堂を土に埋めてしまっていた。そして、22年前と同じく、真海の秘書・土屋慈(三浦誠己)がそれを掘り起こし、安堂を病院に運んでいた。
変わらない公平。でも、留美は22年前とはすっかり変わって、強い女性になっている。

留美「ありがとう。息子に会わせてくれて」
真海「私の計画には、いくつかの誤算がありました。そのうちの1つはあなたです、留美さん。
あなたの持つ強さ、母親の愛情に、心から敬意を表します」

真海にもらった鑑定書を持ち、留美は公平と自分と安堂の関係を公表しにいく。
教会で「神様、ありがとう……」とささやき鑑定書を胸に抱いた留美の背景には、ステンドグラスが淡い光を放っていた。赤ちゃんだった安堂が埋められた場所に立つ聖母マリア像のように見える。

真海のもう一つの誤算は、未蘭と信一朗が出会ったことだろう。こどもの頃から知っていて、恩も受けている信一朗を守るためには、未蘭をも守らなければいけない。この2人の愛を守ろうとするとき、真海は人間らしい義理や優しさを見せていた。

留美、そして未蘭と信一朗は、真海の復讐に巻き込まれながらも自らの愛情によって守られた。第1話で繰り返されていた「必ず最後に愛は勝つ」というフレーズを思い出す。愛によって復讐に打ち勝ったのは、まずこの3人だった。

最後の復讐


いよいよ、復讐の手は神楽清(新井浩文)、南条幸男(大倉忠義)、すみれ(山本美月)に伸びる。かつては柴門暖(=真海)とともに漁港で仲間として暮らしていたはずの3人だ。

暖が受けていたものと同じような拷問を神楽におこない、幸男は自殺未遂にまで追い込んだ。真海は、最後の晩餐と称して3人を鎌倉の別荘に呼んだ。
床にはガソリンのようなものがまかれている。

そこで、第1話のプロポーズビデオを流す。KANの『愛は勝つ』が流れ、幸せそうなすみれや暖の姿が映し出された。
真海は、かつての自分を見て「頭の悪そうな男」「こんな風にはなりたくない」とつぶやく。それは、陥れられたことに気づかなかった自分と、神楽や幸男が敵意を抱えていたことに気づけなかった自分を軽蔑しているということだ。

真海はすみれに、自分と結婚するならば復讐をやめると約束していた。神楽、幸男の前で、その答えを聞く。

真海「すみれさん、あなたを必ず幸せにします。私と結婚してください」
すみれ「……はい、私は真海さんと結婚します」
真海「……ばんざい。やっぱり、最後に愛は勝つんだ」

このとき、真海の表情が一瞬、暖に戻る。心の底から嬉しく、ほっとした顔。でも、その表情はすぐに真海のものに戻る。
なぜなら、すみれが結婚を承諾したのは幸男を守るためであり、勝ったのはすみれから幸男への愛だと気づいたからだ。

3人を追い出し、真海は「ああ、楽しかった」とつぶやく。そして、ガソリンに火をつける。
真海の復讐は、すみれの愛に負けて終わった。

仲間たちの嘘と真海の希望


すみれ「あの人は海から来て、空に帰ったの」

神楽「正直、死んでくれてほっとしてます。だって、こっちは殺されそうになってんすから」

幸男「許せないですよ。周りの連中散々不幸にしておいて、勝手に一人で死ぬなんて」

テレビの報道では暖は行方不明ということになっているが、3人は「死んだ」と言っている。15年前と同じように、嘘をついている。でも、15年前とは違う。暖を陥れるためではなく、守るための嘘だからだ。

炎に包まれ死のうとしている真海を助けようと、神楽、幸男、すみれ、そしてエデルヴァ(桜井ユキ)と土屋が集まっていくシーン。主人公のために敵や味方が集まってくる少年漫画の最終回のようで、グッとくるものがあった。
仲間が集まって闇堕ちしたキャラクターを救う物語として、たとえば漫画『シャーマンキング』や映画『HiGH&LOW THE MOVIE』がある。
人は復讐によって救われるのではなく、他者の存在によって救われる。

真海は、未来ある未蘭と信一朗に「Attendere e sperare」という言葉を遺す。「待て、しかして希望せよ」という意味である。暖やすみれができなかったことだ。

復讐を終えた真海とエデルヴァは、どこかの海辺で2人たたずむ。土屋も連れてってあげて! と思う。安堂が回復したら合流し、また3人で暮らしてくれたらいいなあ。
光のほうを見上げる真海は、逆光で顔が見えない。ファリア真海(田中泯)が「光のほうへ進め」と言っていた。真海の人生にも、まだ希望がある。

俳優たちが演じた役柄と役割


『モンテ・クリスト伯』は、初回の視聴率は5.1%とふるわなかった。しかし、回を追うごとにハマってしまうファンは増えていった。


本作では、どの俳優も「ハマり役」と言われている。役柄・キャラクターに俳優がぴったりと合っていた。その他に、役柄の持つ象徴的な部分を意識することで、立ち位置が明確になっていたという面がある。

たとえば、すみれは愛を象徴している存在、幸男は嫉妬、信一朗は再生、未蘭は希望など。役に役割や象徴が割り当てられており、そこから逸脱した行動はしない。すると物語が寓話のように見えるし、途中参加の視聴者にとってもわかりやすかった。
何かを象徴しているので「そんな人いないでしょ!」はあっても、「その人はそんなことしないでしょ!」というツッコミが入ることはない。

この成功を活かして、また新たな古典作品のアレンジ版を見ることができるよう期待している。

最後に、気になったことを挙げておく。
公平が刑務所に入ったと未蘭は言っていたが、貞吉と弟の瑛人(宇都宮太良)はどうなったのだろう。それから、真海が入間家を去るときの瑛人の目。いつか彼が真海に復讐に来るかもしれないと思わせるような、鋭く恨めしいものだった。
もし瑛人が復讐にやってきたら、真海はそれを受け入れる気がする。そのストーリーもまた見てみたい。

(むらたえりか)

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木曜劇場モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―(フジテレビ系列)
原作:アレクサンドル・デュマ(仏)『モンテ・クリスト伯』(1841年)
脚本:黒岩勉
音楽:眞鍋昭大
主題歌:DEAN FUJIOKA 『Echo』(A-Sketch)
プロデュース:太田大、荒井俊雄
演出:西谷弘
制作・著作:フジテレビ
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