
個性的な役を演じることが多く、スクリーン上で独特の存在感を放つ演技派女優、門脇麦。映画「愛の渦」や朝ドラ「まれ」などの出演がよく知られているが、他にも多くの話題作に出演している。
門脇麦の経歴
まず気になるのは、珍しい名前。苗字はともかく、「麦」という名前は印象的だ。芸名かと思いきや、本名だという。そんな彼女の経歴をまとめる。
ニューヨーク生まれ 「麦」に込められた想い
簡単なプロフィールは下記のとおり。
・生年月日:1992年8月10日
・出身:東京都
・特技:クラシックバレエ、英会話
・趣味:料理、映画鑑賞
出身地は東京とあるが、出生地はアメリカだそう。特技に英会話をあげているのは、もしかしたらこの経験があるからなのかもしれない。
そして「麦」という名前は、前述のとおり本名だ。まっすぐに伸びる麦にちなんで、麦のようにまっすぐに育ってほしいという願いをこめて命名されたという。2013年にファッションブランド「マーガレット・ハウエル」のWebサイトに掲載されたインタビューでは、小さい頃は自分の名前が好きになれなかったこと、そして大人になって「こういうお仕事をさせていただくようになって覚えてもらえるので、よかったなって思います」と語り、同ブランドに“麦色”の洋服があればぜひ着てみたい、と続けてもいる。
バレエに打ち込んだ幼少期
門脇麦は、バレエに真剣に取り組んでいた経験が長いことも知られている。幼少期から10年以上にわたってクラシックバレエを習い続け、小学生の時に友だちと遊んだことがないくらい本気でバレエに打ち込んだ。師事していたのは、岸辺光代氏。ちなみに岸辺氏がどんな方なのかというと、同氏が主宰するバレエスタジオのプロフィールには下記のようにある。
・チャイコフスキー記念東京バレエ団
・ベルギー王立ワロニ−バレエ団出身
・新国立劇場バレエ研修所講師、
・日本バレエ協会理事
・岸辺バレエスタジオ主宰
岸辺バレエスタジオはレッスンが厳しいという人も多く、コンクール出場のための指導にも定評がある。このスタジオ出身のバレリーナのなかには、世界的に活躍するバレリーナ、オニール八菜(はな)がいる。オニール八菜はニュージーランド人の父と日本人の母を持つ日本出身のバレリーナで、3歳の時に岸辺バレエスタジオでバレエを始めた。数々のコンクール受賞歴を持ち、2016年にはバレエ界のアカデミー賞とも言われるブノワ賞を受賞している。
話が少し逸れたが、門脇麦がよほど真剣にバレリーナを目指していたことが、上記の事実から分かる。だが、コンクールへの選抜メンバーに選出されなかったことを機に、中学2年生の時にバレエを辞めてしまう。主演した映画「世界は今日から君のもの」の初日舞台挨拶で人生の転機を聞かれた際には、バレエを辞めて女優業を始めたこと、と語った。それについては次項で紹介する。ちなみに、2013年に放送された東京ガスのTVCM「ガスの仮面 MASK OF GAS」シリーズおよび関連するWebムービではバレリーナ役を演じ、バレエを踊る姿を披露した。
デビューまでの経緯
バレエをやめた後は、「空っぽになってしまった」という門脇麦。その虚無感を埋めるように、歌やジャズダンス、ヒップホップダンスなどに挑戦してみるも、表現がバレエに似ているという理由で続けることはしなかった。そして、高校時代には一人で過ごすことが多く、数多くの邦画を観たという。当時は五十音順に1日4~5本ずつ邦画DVDをレンタルしたが、「あ」から始めて「さ」で挫折したというエピソードを明かしたこともある。
そしてこの映画鑑賞が、のちに女優・門脇麦を生み出すこととなる。
単独初主演映画「二重生活」の公開直前試写会でのインタビューで、宮崎あおいや蒼井優の出演作を見たことをきっかけに女優を目指したと語った。2014年のオリコンニュースのインタビューでも、邦画を観て「『あぁ、役者も表現者だな、私も映画に出てみたいな』と思って事務所に履歴書を送ったのがきっかけです」と答えている。
濡れ場も名演、演技派としてのスタート
バレリーナへの道をあきらめ芸能界入りを果たした門脇麦。ここからは、女優門脇麦の経歴を紹介しよう。
CMで話題~映画初主演
2011年に、テレビドラマ「美咲ナンバーワン!!」(日本テレビ系)でデビュー。同ドラマでは、主演香里菜が扮する高校教師が担任を務めるクラスの生徒役を演じた。
その後もいくつかの作品に出演するが、最初に注目されたのは2013年。1月から放送された「チョコラBB Feチャージ」のTVCMに抜擢され、可愛いなどと評判になった。そして同年、森川葵とダブル主演を務めた映画「スクールガール・コンプレックス~放送部篇~」が、門脇麦の初主演作品となる。同作品は、写真家青山裕企の写真集「スクールガール・コンプレックス」を映像化したもので、配給元の配給のSDPによれば写真集の映画化は国内初だった。
映画「愛の渦」で初ヌード、リアルな濡れ場を演じる
そして、これまでの出演作品のなかで一番の代表作と呼べる映画「愛の渦」に巡り合うことになる。主演は池松壮亮、門脇麦はヒロイン役を演じた。
・内容
午前0時~5時まで、男性2万円、女性1,000円、カップル5,000円の料金で参加することができる淫らなパーティー。
監督は三浦大輔氏で、もともとは同氏が主宰する劇団ポツドールの同名の舞台作品だったものを映画化した。三浦監督は2006年、舞台「愛の渦」で第50回岸田國士戯曲賞受賞している。また、2016年には「池袋ウェストゲートパーク」シリーズでよく知られる石田衣良の小説「娼年」を舞台化(演出・脚本)および映画化(脚本・監督)し、この作品も性欲がテーマであるため、本編中のリアルなシーンが大きな反響を呼んだ。この点が、「愛の渦」とよく似ているかもしれない。「娼年」の主演は舞台・映画ともに松坂桃李が好演した。
・本作における門脇麦の評価
門脇麦の役どころは、“地味でまじめそうな容姿ながら、誰よりも性欲が強い女子大生”。
体当たりで濡れ場を演じたことも話題となったこのヒロイン役は、オーディションで射止めたという。バスタオル1枚で臨み、最後には全裸になったというオーディションで三浦監督が門脇を見初めた。
また、この作品で門脇は3つの賞を受賞した(これについては別項にて紹介する)。本作での門脇麦の演技が、広く、そして高く評価されたことが分かる。

「二重生活」で映画単独初主演
「愛の渦」の同年に公開された「闇金ウシジマくん Part2」、「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」で続けて好演した門脇麦は、その勢いのままにテレビドラマ初主演、翌2015年には朝ドラへの出演などを果たすが、それについては後ほど触れよう。
ここでは単独初主演映画となった「二重生活」について紹介したい。「二重生活」は直木賞作家・小池真理子の小説を原作とした映画で、平凡な大学院生の女の子が、論文執筆のために隣人に対し“理由なき尾行“を行うというもの。尾行を続けることで対象者の秘密が少しずつ見えてくるに連れ、主人公は禁断の行為にのめり込んでいく。そんな主人公を門脇麦が演じ、映画単独初主演について「感慨深いです」としみじみ語った。

受賞歴
門脇麦の受賞歴については、下記のとおり。
・第6回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞(2014年)
※「愛の渦」、「闇金ウシジマくん Part2」での受賞
・第36回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞(2014年)
※「愛の渦」、「闇金ウシジマくん Part2」、「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」での受賞
・第88回キネマ旬報ベスト・テン 新人女優賞 (2014年)
※「愛の渦」、「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」、「闇金ウシジマくん Part2」での受賞
・第14回ウラジオストク国際映画祭 最優秀女優賞(2016年)
※映画「二重生活」での受賞
・エランドール賞 新人賞(2018年)
映画だけでなくドラマなどでも活躍を広げる
前項では主に映画作品について書いたが、ここからはテレビやCM出演なども含め、話題となった作品をいくつか紹介しよう。まずは、主な出演作品を時系列にまとめた。なお、出演予定作品については本項では触れず、公開済みの作品のみをリストしている。
主な出演歴
・2011年
TVドラマ「美咲ナンバーワン!!」(日本テレビ系) ※デビュー作品
・2013年
TVCM「チョコラBB Feチャージ」(エーザイ)
映画「スクールガール・コンプレックス~放送部篇~」 ※初主演映画(森川葵とのW主演)
TVCM「ガスの仮面 MASK OF GAS」(東京ガス)
・2014年
映画「愛の渦」
映画「闇金ウシジマくん Part2」
ドラマ「セーラー服と宇宙人(エイリアン)~地球に残った最後の11人~(日本テレビ系)※ 初主演ドラマ
映画「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」 ※主演(道端ジェシカとのW主演)
ドラマ「戦う女」(フジテレビNEXT/フジテレビ) ※主演
・2015年
ドラマ「佐知とマユ」(NHK) ※主演
TVCM「六条麦茶 100%編」「六条大麦 本名編」(アサヒ飲料)
ドラマ「連続テレビ小説 まれ」(NHK)
・2016年
映画「太陽」※主演(神木隆之介とのW主演)
映画「オオカミ少女と黒王子」
映画「二重生活」 ※単独初主演映画
ミュージカル「わたしは真悟」 ※初主演舞台
・2017年
映画「彼らが本気で編むときは、」
舞台「フェードル」
ドラマ「リバース」(TBS系)
映画「こどもつかい」
映画「世界は今日から君のもの」 ※主演
ドラマ「悦ちゃん~昭和駄目パパ恋物語~(NHK)
映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」
映画「花筐/HANAGATAMI」
・2018年
映画「サニー/32」
ドラマ「トドメの接吻」(日本テレビ系) ※ヒロイン役
TVCM「キリン のどごし<生> 店頭で最高のキレ! 門脇麦篇」(キリンビール)
舞台「NODA・MAP第22回公演『贋作 桜の森の満開の下』」
業界内外からの評判、反応
個性的な役を演じることが多い門脇麦。難しい役に体当たりで挑む姿とその演技力は、関係者や業界内で評価されている。2015年にオリコンニュースで掲載された記事で、同志社女子大学情報メディア学科教授の影山貴彦氏は、門脇麦について「底知れぬポテンシャルを感じさせる女優」だと語っている。
また、2018年10月公開予定の新作映画「止められるか、俺たちを」で門脇麦は主演を務めるが、若松孝二監督は「もう言うことありません。麦さんを通して、この映画があなた自身の物語になることを切に願っています。」とコメントしている。
世間的には、これまでに話題となったクセのある役柄の影響のせいか、根暗なイメージが強い感もある。が、本人は自身を「ネアカ」と表現し、「いつか自分のキャラクターとイメージが合致する時期がくると思うので、今は世間とのギャップを楽しんでいます」と語っている。
NHK朝ドラ「まれ」出演
「愛の渦」が門脇麦の映画女優としての出世作だとするなら、NHKのドラマ「連続テレビ小説 まれ」はテレビを通して彼女の名前を全国区に知らしめた、足がかり的な作品といえるかもしれない。これ以降、映画やテレビの出演本数が飛躍的に増えている。
「まれ」では、ヒロイン(演:土屋太鳳)の同級生役を熱演した。前述の大学教授影山貴彦氏も同ドラマ内での門脇麦の存在感について高く評価しているように、この作品で門脇麦を初めて観て気になったから調べた、という視聴者も多かったようだ。あらためて朝ドラ出演が及ぼす全国的な影響を感じるが、だからこそこの大きなチャンスをものにした門脇麦に注目が集まったと言えるだろう。
話題のエンタメ作品にも多数出演:ドラマ&映画
朝ドラ以降、映画やテレビ作品への出演が増えたことは先にも述べた。ここでは、比較的最近の作品のなかで、広く人気を集めたエンターテインメント作品についていくつか紹介しよう。
・映画「彼らが本気で編むときは、」
トランスジェンダーのリンコを主演の生田斗真が、その恋人役を桐谷健太が演じ、話題となった作品。門脇麦は、リンコの同僚役で公私にわたって良き相談相手である佑香役として登場。
・映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」
Hey! Say! JUMPの山田涼介が主演。主題歌を山下達郎が歌うことでも話題となった。門脇麦は、同作中の重要な役どころであるカリスマ・シンガー・ソングライター、セリを演じた。
・ドラマ「トドメの接吻」
主演は山崎賢人、日本テレビ系「日曜ドラマ」枠にて放送された。門脇麦は本作のヒロインでありながらどこか薄気味の悪い役を演じ、また何度も繰り返される山崎とのキスなどでも注目された。
映画「ナミヤ雑貨店の奇跡」で歌唱力が評価される
門脇麦は、出演映画「ナミヤ雑貨店の奇跡」のなかで披露した歌唱力でも評価されていることをご存知だろうか。同映画や、映画主題歌のCD情報などとともに紹介しよう。
映画「ナミヤ雑貨店の奇跡」とは
直木賞作家東野圭吾の同名小説を原作とした映画。原作は2012年に角川書店より発刊され、ベストセラーとなった。何度か舞台化を繰り返した後、2017年に映画化された。映画には、主演の山田涼介(Hey! Say! JUMP)、西田敏行、尾野真千子、村上虹郎、寛一郎(父は佐藤浩市)、林遣都、萩原聖人など、世代を超えた人気俳優、演技派俳優たちが集結し、主題歌を山下達郎が担当したことでも広く注目を集めた。
また、中国でも映画化され「ナミヤ雑貨店の奇蹟 再生」のタイトルで2017年12月に公開された。香港・中国・日本の合作映画で、日本では2018年10月に公開が予定されている。
門脇麦の役どころ
門脇麦は、国民的歌手であるセリ役を演じた。ネタバレになるので細かくは触れないが、この作品の中ではキーとも呼べる重要な役。歌手として作品内で歌唱した楽曲は、同作品の主題歌でもある「REBORN」(作詞・作曲:山下達郎)。映画の中では門脇麦が歌い、最後のエンドロールでは山下達郎が歌うバージョンが流れたが、この楽曲は山下達郎が同映画のために書き下ろしたもの。原作中に出てくる楽曲のタイトル「再生」を英語化して「REBORN」となった。
歌唱力が評価される
門脇麦はこの映画で初めて歌手役を演じたが、前年2016年12月から2017年1月にかけて公演が行われたミュージカルで主演を務めたため、ボイストレーニングをしていた時期がちょうど撮影前と重なったそう。それでも、山下達郎の楽曲は「難しかった」と言う。楽曲そのものの特徴もあるかもしれないが、ミュージカルとは違い映画のなかの役として歌うわけだから違う歌い方も求められただろうし、“演じながら歌う”のではなく“歌うことを演じる”難しさもあっただろう。作中ではどこか切なげな、「セリ」としての門脇麦の歌を、ライブハウスシーンで聴くことができる。ただ、個性的な歌声ではあるので、一般的には評価が分かれるところかもしれない。
しかし、「REBORN」(山下達郎/ワーナーミュージック・ジャパン)のCDには、門脇麦が歌うバージョンが「REBORN -Vocals by セリ(門脇麦)-」という曲名で収録されている。山下達郎の作品に本人以外が歌う音源が収録されたのは初めてのこと。これは、映画作品に対する評価や人気が高かったこともあるだろうが、門脇麦の歌唱についても評価された、ということではなかろうか。

チケットは超絶入手困難! NODA・MAP公演に出演
今年は秋に2本の出演映画が公開予定の門脇麦。9月からは、話題の舞台作品への出演する。すでに前売り券は完売しているという超人気作品への出演に期待が高まる(当日券の販売はある予定)。
NODA・MAPとは
劇作家・演出家でありながら、俳優としても自身の作品のみならず映画やテレビドラマなどにも出演する野田秀樹が、1993年に設立した演劇企画制作会社。野田地図ともNODA・MAPとも呼ばれる。“会社”というよりは、プロデュース集団と呼ぶほうがふさわしいかもしれない。野田秀樹の戯曲をさまざまな俳優陣が演じるNODA・MAP公演は、そのキャストの顔ぶれなどでも話題になることが多い。
ちなみに、前作となるNODA・MAP第21回公演「足跡姫~時代錯誤冬幽霊~」(野田地図/2017年1月18日~3月12日)には、宮沢りえ、妻夫木聡、古田新太、佐藤隆太、鈴木杏らが出演。野田自身も出演した。
NODA・MAP第22回公演「贋作 桜の森の満開の下」に出演予定
最新作「贋作 桜の森の満開の下」は、過去にも何度か舞台作品として上演され、昨年8月には歌舞伎座にて「野田版 桜の森の満開の下」として歌舞伎化もされた。作家坂口安吾の小説「桜の森の満開の下」と「夜長姫と耳男」を下敷きとしている。1989年の初演以来、野田秀樹の代表的な作品のひとつだ。
2018年度版「贋作 桜の森の満開の下」は、9月から11月にかけて東京、大阪、北九州、そしてパリでも上演される。本公演は「ジャポニスム2018」のプログラムのひとつとして、フランスのパリ・国立シャイヨー劇場から直々のオファーを受けたことがきっかけで実現したそう。その背景も華々しいが、キャストには豪華な俳優陣が名を連ねる。
・キャスト
妻夫木聡、深津絵里、天海祐希、古田新太、秋山菜津子、大倉孝二、藤井隆、村岡希美、門脇麦、池田成志、銀粉蝶、野田秀樹、ほかアンサンブルキャスト
・スケジュール
東京公演: 東京芸術劇場プレイハウス
2018年9月1日~12日、11月13日~25日
大阪公演: 新歌舞伎座
2018年10月13日~21日
北九州公演:北九州芸術劇場 大ホール
2018年10月25日~29日
パリ公演: 国立シャイヨー劇場
2018年9月28日~ 10月3日 ※10月1日休演
NODA・MAP作品初参加となる門脇麦は制作発表記者会見で、「なかなかない経験だと思いますので、いろんなものを吸収したいです」と語った。国内公演の前売りチケットはすでに完売しているが、当日券が全公演にて発売予定だ。