
先日、約4ヶ月に及び33万人を動員した全国ツアー『YUZU ARENA TOUR 2018 BIG YELL』を終えたゆず。およそ2年3カ月ぶりのリリースとなったオリジナルアルバム『BIG YELL』を引っさげて、全国10ヶ所31公演を行った。
今回のツアーでは、アルバムジャケットに描かれている“BIG YELL号”を実際にステージ上に再現。巨大な船のセットを配し、パフォーマーやバンドメンバーらも船員風の衣装を着用したり、その船が演出によって開閉するなど、アミューズメントパークのような様相に。単なるライブという枠を超えた一大エンターテインメントショーが繰り広げられた。

そんなゆずの最近のツアーでは、観客によるライブ中の写真撮影がOKとされている。一眼レフなどのプロ仕様のカメラの使用や、動画での撮影は禁止されているが、携帯電話、スマートフォンではフラッシュを使わなければ、いつ、どんなタイミングでも撮影して構わない。著作権、肖像権保護の観点や、演出上の妨げとなることから、日本でのライブは基本的に撮影NGにしていることがほとんどだが、ゆずは#タグをつけてSNSで撮った写真をアップすることを勧めたり、観客による撮影を推奨してる。そこで、実際にライブを観ながら、観客がどのようなタイミングで撮影をしているかを観察しつつ、なぜゆずのライブは撮影OKにできるのかを考えてみた。
■細部にまでこだわりを持ったステージセット

先に記したように今回のツアーはステージ上に巨大な船のセットがある。しかも船の先端が開くと、中にはさまざまな装飾が施された船室があり、あのセットの中に入れるものなら入ってじっくり眺めてみたいと思わせるような作りになっている。以前からそうだが、ゆずのステージはその時々のコンセプトが細部まで施されていて、ステージセットを見れば、いつのどのツアーかがすぐわかるくらいの特色がある。あのセットを目の前にしたら、とりあえず写真に収めたくなるし、ライブに来ない人にも見てもらいたくなる。観客は開演前のひとときを、そんなセットを撮ったり、セットを背景に自分たちの写真を撮ったりしていた。
■撮れるけど、撮ってる場合ではない! ステージング

写真NGの理由として“演出上の妨げ”を挙げるアーティストは多い。確かに、暗転した会場で、スマートフォンの画面が光ってしまい、全体のイメージを壊すこともあるだろう。ただ今回、ゆずのライブを観ていて思ったのは、それがそれほど気にならないということだ。ライブスタート直後は、やはり目の前に現れたゆずの二人の姿を自分のカメラに収めたいという衝動もあり、多くの観客がシャッターを切っていた。しかしそれも前半のほんの数曲の出来事で、あとは何か変わった演出があったり、メンバーが自分の席の近くに来たときだけ撮ってみるという感じに落ち着いた。それは、自然とそうなってしまうほど、ゆずの二人の生の声の歌力と、会場をひとつにしていく求心力が半端ないからだ。写真を撮っていいと言われてもつい忘れてしまのだ。
それに、ゆずのライブはみんなで一緒に歌ったり、踊ったりする場面がすごく多い。今回も一緒にタオルを振ったり、タンバリンを鳴らしたり、中盤には“青白歌合戦”と題したコーナーもあり、にらめっこ対決やら旗揚げゲームやら――忙しいくらいに観客もライブを作る一員として働かなくてはならない(笑)。
それともうひとつ、アーティスト側が意識的に撮影ポイントを設けているような感じも受けた。今回、北川悠仁の友人と称する謎の外国人“ユージーン”が客席を巡りながら、ファンと触れ合う場面があったのだが、まさに撮りたくなるような扮装だし、自分の近くにも来てくれるので絶好の撮影タイミングだ。また、北川が毎公演、自分のインスタグラムに公演中の動画を撮って上げていたのだが、その時間もファンにとっては撮影ポイントになる。全体を通して、撮影に満足できる時間もあるからこそ、ここはそんなに無理して撮らなくてもという気持ちにもなれる。そのあたりの加減も上手く調整されているように感じた。
■やみつきになる、一期一会のライブ

今回のツアーが4ヶ月かけて行われたように、ツアーが始まってすぐに観る人もいれば、後半まで観れない人もいる。写真をSNSなどにあげてしまうと、いわゆるネタバレという、ライブに行く前にある程度の内容がわかってしまうというリスクがある。だが、正直言って、それがどうした? と言いたくなるくらい、ゆずのライブには実際に会場に行ってみないと経験できないことが山とある。圧倒的な二人の生の歌声はもちろんだが、ゆずのライブにしかない独特の一体感や、参加感は体験してみないとわからないだろう。そのうえで、地方ごとにMCや演出を少しずつ変えていたり、筆者が参加させてもらった横浜公演では、地元・横浜ということで、二人だけで最後に初期の名曲「地下街」も歌ってくれたりと、配慮もある。
ちなみに、ゆずのライブにはやみつきになる傾向がある。そのひとつの証明として、公演中、メンバーは「ゆずのライブが○回目の人」という質問をよくするのだが、とにかくリピーターが多く、10回、20回、30回と回数を上げて行ってもなかなかその人数が減らない。これは毎回おなじようなことが繰り返されていたら、こうはならないだろうし、毎回全然違ってもこうはならないと思う。<ゆずのライブには毎回行くから知っているよ>という定番的楽しさと、<毎回行ってるけど今度はなに!?>という期待が、うまい具合にミックスされている。とにかく、そんな風に来てくれたら満足させられる自信があるライブをしているからこそ、撮影OKにできるというところは大いにあると思う。


今回のツアーも圧倒的なアーティストとしてのカリスマ感を感じられた「TETOTE」から始まり、ゆずのロック魂を感じた「公園通り」や、ユーモアと一体感を味わえたメドレーパートの“青白歌合戦”、横浜公演ではクレヨンしんちゃんと共演した新曲「マスカット」、全員全力でお決まりの“もう一回”コールをした「夏色」などなど、いつもと変わらず名場面のオンパレードだった。撮影OKのライブはまだ日本では珍しいことだけに注目もされるが、以前からゆずが変わらずにやってきていることが、撮影OKにしても変わらずに伝えられること、さらにそれを多くの人に知ってもらえるきっかけとなっていると感じた。ゆずだからこそできるところもあるので、やみくもに他のアーティストもやればいいとは思わないが、撮影OKのひとつの成功例としてゆずのライブを検証してみるのもいいと思う。

文/瀧本幸恵
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