働き方改革が進まないサービス産業に必要なのは「タスクマネジメント」 リクルートが提言
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リクルートワークス研究所は8月23日、都内で飲食業・小売業・宿泊業などのサービス産業の働き方改革をテーマにした研究プロジェクトの説明会を開催した。
現在、ホワイトカラーを中心に働き方改革が展開されているが、サービス産業では道半ば。
実際、サービス産業に関しては、アメリカの生産性水準と日本を比較するとほぼ半分に留まっており、ブレイクスルーも起きていない状況にある。
そこで同研究所研究員の城倉亮氏は、タスクマネジメントから生産性向上につなぐ働き方改革モデルを提案。8つの視点でタスクを見直すことで、具体例をあげて「高付加価値化」と「効率化」を実現すると提起した。
働き方改革が進まないサービス産業に必要なのは「タスクマネジメント」 リクルートが提言
リクルートワークス研究所城倉亮氏


100人募集して8人しか応募がなかったスーパーも


同研究所では2017年4月にサービス産業の「新しい働き方」レポートをリリース。宿泊業に特化していた研究から、小売業・飲食業にも対象範囲を拡大し、幅広くサービス産業の働き方の調査・研究を実施してきた。

サービス産業は深刻な人手不足に悩まされている。「事業への深刻な影響が出ている」の回答割合では、全産業では38.8%、サービス・情報業が45.5%であるのに対して、飲食サービス業は57.1%で、半数を超え、6割近くになっている。
「実はあるスーパーで新店舗を開店する際、100人募集したが8人しか応募がなかった事例もあります」(城倉氏)

パート・アルバイトの確保が難しいなか、しわ寄せが来るのが正社員だ。特に飲食業の労働時間は厳しく、週平均労働時間を「45時間以上」と回答した割合が63.1%になっている。全体平均が41%、小売業43.1%、宿泊業46.4%であることから、特に飲食業の正社員の労働時間は長く、それが離職率の高さにもつながっていると言われている。
働き方改革が進まないサービス産業に必要なのは「タスクマネジメント」 リクルートが提言
出典:リクルートワークス研究所

一方、「働きがい」の観点から見ても、「自分で仕事のやり方を決めることができた」の回答割合は、全職種では40.6%だが、サービス産業の接客給仕31.1%、飲食物調理35.3%、商品販売32.2%。また、「社内外の他人に影響を与える仕事に従事していた」の回答割合は全職種が29.7%であるのに対して、サービス産業の接客給仕22%、飲食物21.1%、商品販売18.7%で、全産業と比較して10ポイントほど低く、人々に影響を与える仕事ができていないと感じている人が多い実態がある。
働き方改革が進まないサービス産業に必要なのは「タスクマネジメント」 リクルートが提言

「働きやすさ」と「働きがい」の両面に課題が残る調査結果となっている。
そこでサービス産業はこの両面を高める働き方改革を進め、人材を確保し、持続的な経営を実現する体制を整えることが肝要であること城倉氏は指摘する。
「単純に給料を上げるということではなく、宿泊業に加えて小売業・飲食業の先進事例22社にインタビュー調査データから働き方改革のモデル化を探った結果、タスクマネジメントに着目しました」(城倉氏)


タスクを見直すための8つの視点


タスクマネジメントとは、職務を整理するだけではなく、職務のひとつひとつの意味や意義を明らかにし、その意味に基づいて、職務のやり方や任せ方を変えることを指す。タスクの高付加価値化により、サービス向上につながり、売上げもアップし、働きがいが向上。加えてタスクの効率化により、一部の仕事を削減することから、コストダウンがはかれ、残業時間も減少し、働きやすさが向上する。最終的には従業員満足度が向上し、定着率もアップするということだ。それでは、より落とし込んだタスクマネジメントの8つの視点はどのようなものか。そして具体例も見てみよう。

1.タスクの高付加価値化
(1)タスクに時間をかける
チーズタルト専門店「PABLO(パブロ)」では、スタッフが笑顔で両手を振って挨拶をする。チーズタルトが美味しいから買いに来るだけではなく、あの店の雰囲気が好きという理由で顧客を取り込むことを考え、来店時の接客は常に工夫を重ねて改善している。

(2)タスクの場所を変える
「串カツ田中」では、社員教育に力を入れて、従業員の定着・スキルアップをはかっている。新たな取組として研修センター店を開店した。それまでは、新しく入社した社員がスキルを習熟する前に退職してしまうケースがあった。
価格を抑えた研修センター店でスキルを習得し、その後各店舗に配属し、サービスレベルをアップした。

(3)タスクに情報を活かす
とんこつラーメン「一風堂」では、店舗での教育や評価基準のばらつきに課題があった。そこでITシステム「イチトレ」を導入。国内直営店全店にタブレット端末を配布し、その端末で“麺のゆで方”“伝票の書き方”などを共通の動画で学ぶことができた。在籍スタッフのスキルも把握でき、評価も公平に実施できるようになった。

(4)タスクに予算をかける

2.タスクの効率化
(1)タスクを減らす
大阪のガストロノミーレストラン「HAJIME」はミシュランで三つ星を獲得したこともあるが、2012年にランチ営業中止を決断した。「続ければ、新メニューの開発する時間も取れず、持続的な経営はできない」と判断したため、現在は高い収益性を実現している。
「ここは店舗が一つしかないですが、中小規模でも働き方改革が実現できる証左でもあります」(城倉氏)

(2)タスクを集める
「居酒屋いくなら俺んち来い」「とりとん」「Pecori」など116店舗を運営するファイブグループ。店舗で管理する数値は“FLコスト”と呼ばれる原価と人件費のみ。一般的には販促費、求人広告費から水道・光熱費に至るまで店長が管理し、コントロールし利益を出そうとするが、これらの費用は本部が一括管理する。店長の仕事はお客様の“また来たい”を生み出すことに集中している。

(3)タスクを任せる
岡山県のスーパー「ニシナ」では、他社に先駆けてシニアがナイトマネージャーとして店長代理業務を担う制度を採用した。
マネジメント業務経験を持つ人に、マネジメントに特化できる環境は、経験を活かせ、店長の負荷が軽減する。

(4)タスクを重ねる
神奈川県鶴巻温泉にある「元湯 陣屋」では、「料理を運ぶ」「炭を運ぶ」などと細かく従業員の役割が分かれていたため、“手持ち”時間が多くなっていた。そこで従業員のマルチタスク化を進め、手持ち時間を減少させることに成功した。
ちなみに、「元湯 陣屋」では、タスクの廃止とマルチタスク化で「効率化」を実現し、料理の改革によるタスクの「高付加価値化」を展開、加えてIT活用によるタスクの「効率化」「高付加価値化」の促進をはかっている。そのため、売上は改革前の2009年時点では2.9億円であったが、改革後の2017年では5.6億円に、平均年収も288万円から398万円にそれぞれアップ、離職率も33%から3%に減少するなどV字回復した。

今回の働き方改革の視点では効率化により、業務を減少させることに注力しがちだが、リソースを投下する「高付加価値化」も「働きがい」につながるという新たな検証も生まれた。

「効率化と高付加価値化の両方に着目することが大切。実は、タスクの高付加価値化はサービス産業に限らずほかの産業でも通用すると考えています」(城倉氏)

少子高齢化や人口減少時代がいよいよ本番になる。その影響は我々の身近に到来し、感じるケースが増えてくるだろう。今まで以上に人材確保が困難になることが予想される。サービス産業だけではなく、あらゆる産業で「働きやすさ」と「働きがい」が満たさせるような働き方改革が進展し、生産性が向上し、持続可能な経営を実現していくことが求められているのだ。
(長井雄一朗)
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