
■『高橋 優 LIVE TOUR 2018-2019「STARTING OVER」』
2019.03.03(SUN)at 神奈川・横浜アリーナ
自身を後戻りできない状況に追い込み、文字通り、心身ともに削りながら制作した高橋 優の最新アルバム『STARTING OVER』。曲が書けず、自分が何を歌いたいのかもわからなくなる、そんなつらい時期を1年ほど経て、「美しい鳥」を生み出した時、高橋は「狼煙(のろし)が上がった感じがした」という。<高ぶる 感情を知ってるか?>というフレーズに、はっとさせられる「美しい鳥」。自分にとって大事なのは他者承認ではなく、自らの中に沸き起こる感情で、そこに「意志」がある――そんなことを思わされる曲だ。
その「美しい鳥」を突破口に完成させた、再出発=『STARTING OVER』という名のアルバムは、高橋が怒りや疑念を端緒に楽曲を作り、我々はその表現に感情をえぐりだされるんだということを改めて高橋 優というシンガーソングライターに感じ、求める作品になったと思う。
昨年12月よりスタートした、全国18箇所・22公演からなる『高橋 優 LIVE TOUR 2018-2019 「STARTING OVER」』。3月2日・3日と2デイズで行われた神奈川・横浜アリーナ公演には、アルバム『STARTING OVER』ですべてを出し切り、むき出しの心で観客に対峙する高橋 優の姿があった。

オープニング映像がカットアウトし、暗転した瞬間ステージ中央に照射されたピンスポットの中に姿を現した高橋 優。これから先も、その身を削り、歌い続けていくという覚悟を身にまとったかのように堂々と立つ彼の姿に、ほっとし、頼もしさを感じた。
凄みを伴って迫るバンドサウンドの「ルポルタージュ」、荒々しいギターに心震えた「ストローマン」、エンディングの叫びが胸に迫った「太陽と花」。ギラつき、ひりひりした曲が並ぶ。この“ひりひり”こそが高橋 優なんだ、と改めて思う。
高橋のスランプの突破口となった「美しい鳥」、「こどものうた」に通じるシリアスさと歪んだ社会へのアンチテーゼを歌う「aquarium」と、アルバム『STARTING OVER』の軸とも言える曲が続く。
MCでは一転、「目が笑っていない」と言われることについて話し笑わせる。最近、新しく現場マネージャーに就いたという25歳・男性とのエピソードは、これまでの高橋 優のライブのMCで一番笑った(笑)。そして披露したのは「いいひと」。「いい人だ、いい人だ」と言われ、笑顔を見せるも、心の中では毒づいているというサイコパスな裏側を歌う、高橋らしい視点の曲だ。
「若気の至り」は、夕焼けのようなオレンジ色のライトの郷愁を誘う演出で披露された。

誰しも、「これは本来の自分じゃない」「人に評価されることを意識する自分に疲れた」と、社会人の鎧を脱ぎたくなる時があるのでないだろうか。「プライド」はそんなすべての闘う人を肯定し、エールを送る曲だ。心の奥を見透かされているのではないかと思うほどに言葉の一つ一つが身にしみ、嗚咽するほどに涙し、その後にはもう一度這い上がってみようかと奮起して、闘志をみなぎらせられる。「高橋 優と、高橋 優の作る曲と出会えてよかった」と、心から思えた時間だった。
「高野豆腐~どこか遠くへ~」は、くすっと笑ってしまうユニークなイラストレーションをバックに披露、「虹」のまさしく“熱唱”も素晴らしかった。
そして「Harazie!!」! これまで、「泣く子はいねが」のカオスな盛り上がりがライブのハイライトであったが、高橋はまた新しい“武器”を作り上げてしまった!! アルバムのインタビューの際、「『Harazie!!』はどうなるんだろうって、考えただけでウキウキしますね」と語っていた、全編秋田弁で歌われるこの曲は、ジェームス・ブラウンばりの本気のファンクナンバー。サイケな映像を背に、ギターを置き、マイクを握りしめた高橋が時折ダンスしながら歌うというカオスぶり。何を歌っているんだか、県外の人にはさっぱりわからず、思わず笑ってしまうのもつかの間、そのカッコいいサウンドに、夢中になってノリまくってしまう。
高橋の丁寧な説明に導かれ、一緒に、
け!け!け!け!け!け!け!け!け!け!け!け!け!
は!は!は!は!は!は!は!は!は!は!は!は!は!
さ!さ!さ!さ!さ!さ!さ!さ!さ!さ!さ!さ!さ!
と歌い、この上ない一体感が生まれた。
ちなみに、筆者は秋田県立体育館での公演も見せていただいたのだが、この「Harazie!!」の中毒性が秋田に足を運ばせたと言っても過言ではない(笑)。

本編ラストに届けられたのは「ありがとう」。曲に入る前、高橋はこう言った。
「今日、横浜の皆さんが見せてくれた表情とか、聞かせてくれてくれた声とか、手拍子とか、そういったものを思い出したら、どんな憧れの場所にも向かっていける気がします」
「これからどういう道を歩いていくにしても、道の先でどういうことが待っていたとしても、今ここ横浜アリーナで、3月3日に皆さんと一緒に経験させてもらったこの気持ち、今ここにあるもの、これだけは何があっても絶対に忘れないで歩いていきたい。そういう願いを込めて書かせてもらった曲を最後に歌わせていただきたいと思います」
ファンに正面から向き合う、高橋の誠実な人となりを見た気がした。

アンコールでは「泣く子はいねが」「ロードムービー」「リーマンズロック」の3曲を披露。「ロードムービー」でのステージいっぱいに広がった星空と、そこに凛とたたずむ高橋 優の姿を、我々もまた、ずっと忘れることはないだろう。
スランプに陥り、曲を作れなかった高橋が、環境に甘んじることなく、あえて自分を追い込みながら作り上げた16曲入りのアルバム。彼はそのアルバムを『STARTING OVER』=再出発、と名付けた。一度の失敗すらも許されない風潮にある今の社会において、高橋 優の歌は我々の希望だ。<STARTING OVER 何度でもまた走り出せ>と叫ぶ高橋の歌声に、息を整え、拳を握りしめた。
(取材・文/田上知枝、撮影/新保勇樹)
セットリスト
1. ルポルタージュ
2. ストローマン
3. 太陽と花
4. 美しい鳥
5. aquarium
6. STARTING OVER
7. 羅針盤
8. いいひと
9. シンプル
10. キャッチボール
11. 若気の至り
12. 非凡の花束
13. プライド
14. 象
15. 高野豆腐~どこか遠くへ~
16. 虹
17. Harazie!!
18. 明日はきっといい日になる
19. こどものうた
20. ありがとう
<ENCORE>
1. 泣く子はいねが
2. ロードムービー
3. リーマンズロック
ライブ情報
【秋田CARAVAN MUSIC FES 2019】
公演日:2019年9月14日(土)、9月15日(日)
時間:開場10:00 / 開演12:00 / 終演18:00(予定)
会場:大仙市サン・スポーツランド協和野球場(秋田県大仙市協和船岡字大袋2-2)
出演:各日7アーティスト出演予定(高橋 優含む)
※出演者は後日発表
特設サイト:http://www.acmf.jp/2019/
【メガネツインズツアー LIVE TOUR 2019(仮)】
2019年6月19日(水)20日(木)大阪・なんばHatch
2019年7月3日(水)4日(木)愛知・名古屋 Zepp Nagoya
2019年7月16日(火)17日(水)東京・豊洲PIT
■高橋優 オフィシャルサイト