
「この歳にしても全く失敗を恐れず、これからも挑戦し続けることを誓います!」
ライブの締めとともに、西川貴教はこんな宣誓で自身の1stツアーを結んだ。西川貴教の本名名義初の全国ツアー『Takanori Nishikawa LIVE TOUR 001 [SINGularity]』のフィナーレを飾る追加公演が、6月20日に東京・ZeppTokyoにて行われた。
今回のツアーは非常にコンセプチャルなものであった。上述の作品に於いても流れや物語が設定され、全体的にひとつの大きなストーリーが描かれていた。しかし本ツアーでは、あえてそれをそのまま演るのみにあらず。前編/後編と別れて展開。前編はアルバム通りの流れが成され、後半ではそれらが一度解体され、リビルドされ、並べ替えられ、前半とはまた違った感受を我々に与えてくれた。それらは同じ原曲ながら違ったアプローチを経ることにより、全く違った響き方や感受を我々に供与。そのライブに於けるインタラクティブ性やフレキシブルさも、まさに「『SINGularity』=可能性や想像のその先」と称せるものであった。
このライブのストーリーには、A.I.(人工知能)と人間とが相交え、共存していけるのか? また、進化したA.I.を人類はさらに凌駕できるのか? があった。それを巡る物語がステージ後方一面のLEDスクリーンを通して伝えられていく。無機質で無感情な合理性や効率、生産性や秩序を重んじる「フレイ」なる学習機能に長けた人工知能。片や、「それだけが全てではない!」そんな人ならでは、人だからこそのグレーゾーンを武器に、A.I.をも勝る存在証明をすべく我々人類との良面/良点のせめぎ合いの体を見せた。
先に私的解釈を並べると、そのA.I.と競い、人間らしさに改めて気づかされた我々が、その人間でしか味わえない高揚感や至福感、生命力を実感。前半はそれを取り戻すまで、後半は取り戻した後、その歓喜や実感も交え、その人間性を謳歌しているように映った。
ステージには機材と車のヘッド。スクリーンにはストップウォッチが映し出されている。
開始1分前。赤いコーションランプが光り場内が高揚。幕開けへのカウントダウンが始まる。ジャストで場内が暗転。全面スクリーンが映し出すバグノイズの映像の下、アルバムの1曲目のインスト楽曲「SINGularity」が流れ出し、場内のクラップと共にまずはバンドのメンバーがステージに現れる。

生命力溢れるビートが叩き出され、メンバー各人がフリーフォームでそこに音を重ねていき、その中から1曲目の「Roll The Dice」が姿を現していく。雄々しいゴスペルアンセム部分が場内も交え生み出される中、「できるかじゃない、やるんだ!」とシルエット姿の西川が一言。幻想的な映像を映し出していた後方のスクリーンが左右に開き、同曲を力強く歌い出しながら彼は登場した。
「戻ってきたぜ、東京! 正真正銘、西川貴教として生まれて初めてのツアー。しかもありえなかったもう1日。これってもう既にSINGularityが起きてんじゃねえっすかって話で。今日は俺とお前らだけの夜です。今日は言いたいこと、伝えたいことだらけだ」と告げる。続けて、前述の「フレイ」の説明に入る。

「進化のこの先を見せてやる!!」と西川。ここからは、例え幾らA.I.の演算処理能力が高くても、理解不能な会場とフロアとの魂の交歓が繰り広げられていく。ラウドロック調の「Hear Me」にて楽曲が有したダイナミズムが雄々しい魂の叫びを会場全体にアンセムさせれば、ツーステップが似合う「REBRAIN In Your Head」では青いレーザーが会場を徘徊。会場からのコールが楽曲を一緒に完成させていき、ミディアムながらも力強く進み、ゆるやかな上昇感も魅力の「NOISEofRAIN」(この曲のみSawanoHiroyuki[nZk]へのボーカルフィーチャリング曲)では神秘性の中、哀しみを場内いっぱいに溢れさせていく。
「生まれたての楽曲をライブを通して一緒に育て上げてきたかのようなツアーだった。ライブを重ねる毎に楽曲たちが成長している実感があった」と、まさに楽曲と人工知能の共通項を告げ、やはりA.I.と人間、共存し共に進化していくべく次のブロックへと進みゆく。


三拍子のバラード「awakening」が深い哀しみをドラマティックに場内に染み渡らせていけば、「Be Affected」では、楽曲が土煙を上げてフロアに飛び込んでくるかのような突き進みと会場を駆け抜けてゆくのを感じた。また、「His/Story」では、理不尽な無数の哀しみを映し出した映像の中、そこを抜け出すように、「この声よ、届け!」とばかりに歌を轟かせていたのも印象深い。
「Elegy of Prisoner」からは人が人である為の自我を取り戻す“証明”へと進んだ。ストレートながらダンサブルさも擁した「HERO」では、映し出された西川の像に未来を託した我々が手を伸ばし、まさにA.I.との抜きつ抜かれつのチェイスの体を見せ、西川もステージ上の車のボンネットに乗り高らかに歌を響かせる。そして前編ラストは「UNBROKEN (feat. 布袋寅泰)」が最高の高みにまで場内を連れて行き、役目を終えた彼は再び2つに割れたスクリーンの間に吸い込まれるように消えていった。

後編は同じ曲ながら異なったアプローチにて違ったストーリーを楽しませてくれた。不穏に徘徊するサーチライトのなか、「俺がお前の夢になってやる!俺がSINGularityだ」と4つ打ちが場内に鳴り響き、後編が打ち出したのはまさに高揚感や至福感。そしてそこから導き出される人生の謳歌であった。

まずは「Roll The Dice」にて、力強い4つ打ちのレイブでフレンチクラッシュなサウンドが場内にバウンスを起こせば、「ここに日本で一番でっかいクラブを作るぞ!」と入った「His/Story」では、各人のソロプレイを交え、高揚するサウンドに雄々しいアンセムコーラスがベストマッチを魅せる。また、「お待たせしました!」と上着を脱ぎ捨て、鍛え上げられた肉体の披露から、ドライブ感と疾走感溢れる「REBRAIN In Your Head」に入ると、会場がさらわれるようにどこかへと連れ去られていくのを感じた。

神々しくも神秘性すら感じた「Hear Me」を経て入った「HERO」では、会場も幸せそうなワイパーを作り出し、一緒に歌う光景も想い出深い。さらにスクリーンに次々に映し出されるリリックと共に歌った「Elegy of Prisoner」。「ここから先は返さねえぞ」と上半身裸になり歌った「UNBROKEN (feat. 布袋寅泰)」にてテンションをぐいぐい引き上げ、ラストは会場全体を一人残らず感電させるべく「BIRI×BIRI」へ。最高潮を迎え高揚感と至福感を保ったまま、記念すべき1stツアーの幕を下ろした。

「ここからがソロとしての新たなスタートです!」「これから沼の奥へ引きずり込んでやるから!」「夢のない奴はここに来い! 俺が夢になってやんぜ!」との締めの言葉を数多く残し、最後にメンバーと共に上げた腕は頼もしかった。
日本の屈指の技術とアイデア、頭脳を結集させ作り上げ、惜しみなく披露した今回のこの演出。それらは振り返るにつけ、今後これを経た日本のライブエンタテインメントへの未来へと想いを馳せさせた。

取材・文/池田スカオ和宏
<セットリスト>
Overture
1.SINGularity(S.E.)
2.Roll The Dice
3.Bright Burning Shout
4.Hear Me
5.REBRAIN In Your Head
6.NOISEofRAIN
7.awakening
8.Be Affected
9.His/Story
10.Elegy of Prisoner
11.HERO
12.UNBROKEN (feat. 布袋寅泰)
Epilogue
En-1.Roll The Dice
En-2.His/Story
En-3.REBRAIN In Your Head
En-4.Hear Me
En-5.HERO
En-6.Elegy of Prisoner
En-7.UNBROKEN (feat. 布袋寅泰)
En-8.BIRI×BIRI
ENDING