
1万2000人の大観衆に埋め尽くされた国立代々木競技場第一体育館。びっしりと埋まったフロアの景色が圧巻で、それだけでもうこみ上げてくるものがある。
オレンジの照明の中、藤原“31才”広明(Dr)のもとに集まるメンバー。白い光を浴びた渋谷龍太(Vo)が「それでも世界が目を覚ますなら」の一節をアカペラで歌い、「SUPER BEAVER、よろしくお願いします」と声を上げライブはスタート。静寂した会場に4人の音が鳴り響く。

「一発目から本気でいくんで、本気でかかってきてください」。そう渋谷が告げた後「青い春」が始まると、1万2000人の拳が力強くステージへと向けられる。一言一句、1音1音を噛みしめるように放つ4人、そして一言一句、1音1音をひとつもこぼさないよう受け取ろうとするオーディエンス。全身全霊、どちらも本気だ。
「自分のバンドをあまり褒めたりしないけど、今日この場所にあなたを連れてこれたという1点はSUPER BEAVERを褒めてやりたいと思います。4人だけで音楽やったって何にも楽しくない。あなたがいて成り立つってそんなふうに思ってます」――4人だけで始まったからこそ説得力ある言葉のあとは「ラヴソング」でまっすぐな想いを届け、続く「irony」では「いまだけここをダンスホールに変えたいんですけどいいですか?」という渋谷の言葉に応え、全員で巨大なダンスホールを作り上げた。

「本日はこの場を借りて本当のコール&レスポンスをやりたいと思います。


4月1日にバンド結成15周年を迎えるSUPER BEAVER。渋谷はこの15年を振り返り、「目の前に1万2000人ではなく、あなたがいてくれるというこの事実は俺たちにとってかけがえのない宝物です」と述べ、「拝啓、数年前の僕は何をしていますか。拝啓、数年後の僕はどこで何を見ていますか。目の前にあなたがいてくれることを願って」と2010年、メジャー時代にリリースした「まわる、まわる」を演奏。

歌い終わると深く頭を下げ、この10年前の歌を、「いまならもっとあなたに伝えられるかなと思って」と歌ったことを告げる。続けるだけが決していいことではないことはわかっている。ただ、こうして続けてきたからこその意味が、この日のこの曲に込められていたかのような気がするし、この場に立ち会えたことに感謝しかなかった。
「せっかくなので座ってみませんか?」と着席した状態で「your song」と「人として」をしっとりと聴かせた後のMCでは、柳沢亮太(Gt)が「今日は始まってからずっと楽しいです。こんな素晴らしい日を迎えられて、SUPER BEAVERをやっててよかったなと思います」と言えば、代々木が地元だという上杉研太(Ba)は「今日はちょっとキテるわ、ヤバい、泣きそう」と目を潤ませ、藤原が「やなぎ(柳沢)と昔ここにライブを観に来たこともあって、そんな場所に立てて嬉しいです」と言うと、すかさず「おまえは座ってるけどな」と渋谷がツッコミを入れたりと和やかなムードになるものの、「上杉と俺が高校3年生、柳沢と藤原が高校2年生のときに組んだバンドがまさか15年も続くとは思わなかったし、こんな場所でできるとは思わなかったです。ほんとに嬉しい日です。あらためてありがとうございます」と再び感謝を述べる。

「歓びの明日に」から一気に熱を帯びていった後半戦。「会いたいあなたには間違いなくあなたしか会いにいけないからな。そのなりたいあなたに少しでも近づけるように精一杯ど真ん中に届けるんで」と歌った「予感」。「あなたが目の前にいてくれたら俺たちが歌う理由としては充分だ。そういうど真ん中の音楽がぶっ刺さりますように」という言葉に一際手拍子が大きくなった「27」。「東京流星群」ではステージ後方スクリーンに流星群が映し出され、フロア上にはミラーボールが。そして間髪入れず歌われた「嬉しい涙」。こんな景色をこんな想いで観たのはたぶん初めてではないだろうか、というほど愛おしい感情に包まれた瞬間。

「俺たちは自分たちの足であなたに会いに行きました。あなたは自分たちの足で会いに来てくれました。今日みたいな日のために生きてるって言ってもバチは当たんないんじゃないかなって思える1日でした。“生きててよかった”って思わせてくれたあなたの“生きててよかった”になりたいです。そうやってつながれてることが俺たちの宝物です。何よりの財産です。なので地に足つけて精進して、バチバチにかっこいいバンドマンをこれからもやっていきますんで、安心してついてきてください」と「全部」を歌い、最後は「美しい日」――幸せはいまここにあるということを噛みしめながら本編を終えた。
そしてスクリーンには『SUPER BEAVER 15th Anniversary 続・都会のラクダ TOUR 2020 ~ラクダの前進、イッポーニーホー~』のライブスケジュールが映し出される。ライブハウス公演に加え、仙台ゼビオアリーナ、大阪城ホール、日本ガイシホール、横浜アリーナというアリーナでの単独公演が発表された。大きく反応するオーディエンスに、「ライブハウスでもやります。ホールでもやります。

「自分たちは自分たちの歌でなんとか生きてました。漠然とした未来の中に立って、具体的に何も思い浮かばなかったけど、それでも目の前に差し伸べてくれたその手をつかんで、その手を離さないようにして何とかこの場所に這うように来ました。いまなら自分たちが生かされていた歌をあなたに歌える気がしてなりません。これからもよろしくお願いします、という意味を込めて最後に1曲」と「シアワセ」を披露。これは11年前の曲であり、2018年のアルバム『歓声前夜』に再録された曲でもある。そんな大切な楽曲を丁寧に丁寧に1万2000人へと届け、この日は幕を閉じた。

なんて人間くさいんだろう――とにかく改めてそう思った。誰のことも置いてきぼりにしないし、誰の想いも置いてきぼりにしない。つまりはそれが“あなた”と対峙するということだ。一見きれいごとのように聞こえるかもしれないが、きれいなだけじゃそんなことはできないし、そもそもそんな面倒なことはしない。
伸ばした手の先にこれからも変わらず4人がいてくれるのなら、4人の伸ばす手の先にこれからも変わらず居続けたい。そして、こうしていくつもの過去最高の夜を、過去最高の美しい日をともに更新し続けていきたい。心からそう思い、そんな日がたしかにくるということに喜びを感じた夜だった。

取材・文/藤坂綾
<セットリスト>
01. それでも世界が目を覚ますのなら
02. 青い春
03. 閃光
04. ラヴソング
05. irony
06. 正攻法
07. 秘密
08. まわる、まわる
09. your song
10. 人として
11. 歓びの明日に
12. 予感
13. 27
14. 東京流星群
15. 嬉しい涙
16. 全部
17. 美しい日
ENCORE
18. シアワセ