
アフリカでもその脅威が心配される新型コロナウイルス。フランス語を公用語とする西アフリカのセネガルでは、現在非常事態宣言が出され外出は制限、夜21時から翌朝5時までの夜間は完全に外出禁止だ。
現在の首都ダカールの様子を、現地で事業を行う日仏ハーフのリナ・ロベールさんに聞いた。
宗教的な集まりを制限することの難しさ

――新型コロナは、セネガルでどのようにして広がりましたか?
3月2日にセネガルで初めての新型コロナウイルスの感染が確認されました。最初の感染者はフランス人でした。セネガルはフランスとの貿易や支援団体、人の行き来が多く、また、定年後をセネガルのヴィラで暮らすフランス人もたくさんいます。最初はヨーロッパからの帰国者を中心に感染が確認され、その後は首都ダカールで感染者が確認され、その後はトゥーバという町で広がりました。現在(5月20日)、セネガルにおける新型コロナ感染者は累計で2600人以上に。死者は30人で、1133人が快復し、1453人が治療中です。
――セネガルで非常事態宣言が出されたのはいつですか?
3月23日に発表され24日から行われました。その前、3月19日には空港が閉されています。

――たとえば大きなスポーツイベントなど、セネガルでは感染が拡大するようなきっかけはありましたか?
非常事態宣言が出された後にも、宗教の大きなイベントがありました。ダカールから車で2時間ほど離れたセネガル中部に、先ほど話題に出したイスラム教の聖地として知られるトゥーバという町があります。ここでは毎年大きな巡礼祭が開かれ、セネガル国内以外にもマリなど近隣諸国から巡礼者が来ますが、非常事態宣言が出された後でもお祭りは行われました。そこで感染者数が広がったと言われています。
――国によっては宗教的なものへの制限が、ときに難しいですよね。
セネガルでは、宗教の存在が大きく、イマーム(指導者)はすごく大切にされ、大統領選も宗教の影響を広く受けます。
――セネガルならではの感染拡大の原因はありますか?
セネガルは1世帯の人数が多く、特に貧しい地域は同じ屋根の下で、大家族で暮らしています。ご飯も大皿に盛って、同じ皿からそれぞれが手を使って直接口にご飯を運びます。そういう状況だと、どうしても感染の機会が多くなります。先ほどお伝えした宗教的な集まりもそうですし。
――セネガルで感染が爆発する恐怖みたいなものはありましたか?
個人的には感じませんでした。もっとも世間で騒がれていた時期が、3月末から4月頭にかけてでしたが、おそらく今でも皆、心配だと思います。

――新型コロナに対する個人差は大きいんでしょうか?
暮らす地域によって印象は大きく変わるかもしれません。ダカール郊外の高級住宅地などは、家は密集しておらず、整然と並び地区が整備されていますが、ダカールの中心部は、綺麗なところばかりではありません。ダウンタウンの市場は商店が雑然と並び、衛生的とは言えませんので、感染拡大についてより不安が増すかもしれませんね。ウイルスの恐怖というよりも、人々がもっとも心配しているのは経済面ではないでしょうか。
――というと?
セネガル人では、その日暮らしの人が多いです。セネガルはインフォーマルセクターが経済活動の8割を占めています。インフォーマルセクターというのは、街中の売り子のような形の商業活動です。たとえば、セネガルでは赤信号で車を止めると、売り子が車の周りに来てバナナなどを売りにきます。外出が制限されると、彼らのその日の収入が絶たれます。

――セネガルは元から失業率は高いですか?
セネガル統計局によると、2019年末では16.9%でした。対象年齢は15〜65歳です。ただし統計の数字は、上記のような統計に反映されない部分も多いため、実情と異なる場合があります。
――4月23日から1カ月ラマダン(イスラム教の習慣である断食の期間)が続いていますよね。
そうですね。あと現在、セネガルでは夜間が完全に外出禁止になっています。ラマダンの期間中は、朝5時半から夜7時半まで物を食べられませんが、夕方くらいになったら近所のパン屋はできたての温かいパンを買いに出かけ、夜になったら皆で集まってご飯を食べます。
水が貴重な地域ではそもそも手洗いができない

――感染対策は、どんなことが挙げられますか?
スーパーマーケットでは、客はマスクをした上で、番号札を渡され、手を消毒して入店するなど、細かい対策が行われています。また非常事態宣言が出された時点で、市場に対する制限が行われ、食料品は月・水・金曜の週に3日間、衣料品は火・木曜で、土・日曜は完全閉鎖します。スーパーマーケットも人数制限をしています。
都市部ではこのような感じですが、地方との差は大きいです。そもそも水が貴重な地域では、石けんを配られても手を洗うことができません。

――対策を守る人は多いですか?
セネガル人は国民性として穏やかで、言われた通りに従う人が多いです。ただ、これらの対策がそれぞれの人に周知されるスピードは、どうしてもは遅いです。あと、どこの国でもそうであるように国民からの文句もありますが、政府に対する信頼はあります。

――新型コロナが深刻化してから、どのような生活を送っていますか?
個人としては、仕事はテレワークに切り替えています。政府からも移動は避けるようにという指示が出されています。夫はテレワークできない部分がありますので、徒歩10分先にある職場に通っています。営業時間を短縮して働いている人もいます。
――公共交通機関はどのような状況ですか?
バスは乗る人数が制限されています。以前は車内にぎゅうぎゅう詰めで扉も開いたまた出発するような感じでした。しかし、今は人数が通常の4または5分の1程度で、2席に1人乗るといったように間隔が空けられています。タクシーについては、以前は運転手に加えて、助手席1人、後部座席3人だったものが、現在は運転手と乗客2人までになっています。

――生活必需品は十分に手に入りますか?
新型コロナが拡大し始めた頃に、少し買いだめが起こった程度です。ただし、買いだめは富裕層や知識層など。多くの人はそもそも、あらかじめ物を買って保管しておくという習慣がありません。経済的にも買いだめできない人が多いです。一般の人々は、1回の買い物にナスを1本とか、ジャガイモを1個といった形で購入します。
――日本は一時期トイレットペーパーの買いだめがありました。セネガルではそういった現象はなさそうですね。
ないです。あと、トイレットペーパーについても、セネガルのトイレはトイレットペーパーもありますが、脇にあるミニシャワーで洗う方式ですので、日本などとは少し習慣が違いますから。
――治安の悪化はありましたか?
大幅な悪化はありません。
食料面での支援はあるが配布で問題も

――新型コロナの感染拡大によって貧困な地域や人々も出てくると言われています。
途上国ですから貧困はすでに多いですけど、新型コロナ対策として貧困層を助ける政策は取られています。まず政府は、国内100万世帯に食料などの詰め合わせを配るというもので、1世帯あたりお米が100キログラム、油が10リットル、砂糖が10キログラム、パスタが10キログラム、石けんを18バールといった内容です。1世帯は大体800〜1000万人になりますので、約1600万人のセネガルの人口の半数に、食糧が渡されます。
――それは助かりますね。
ただし本当に地方まで、必要な人まで、それら支援がたどり着くのかという問題もあります。
――他に支援はありますか?
30〜50万世帯の貧困層にお金が渡されますし、水・電気が2カ月分、政府によって肩代わりされます。あとセネガルでは「オランジュマネー」という、スマホではなくSMSでやり取りする電子マネーのようなものが普及していて、皆それで請求書などの支払いをしているのですが、そのオランジュマネーの手数料が無料になっています。

――経済面ではどうですか?
経済へのテコ入れとしては、1兆CFAフラン(約1800億円)が観光産業など、各分野に使われます。ヨーロッパが寒い時期、つまり4月末までがセネガルの観光シーズンなのですが、今年は新型コロナで観光産業が大きな打撃を受けました。
――寄付などもありますか?
たとえば、フランスの石油大手トタルがガソリンをセネガルの保健省に無償提供したり、新型コロナ対策について企業に協力してもらうための基金ができています。ソナテル、エファージュなど、セネガルの大手企業もコロナ禍を乗り越えるために協力しています。
マラリア対策薬クロロキンを新型コロナに

――医療崩壊が起こる可能性はありますか?
元からセネガルの医療インフラは十分ではありません。感染が大きく拡大すると、さらに対応は難しくなるかもしれません。さらに地方となると、週に医者が1回しか来ない場所もありますし、普段は看護師しかいない診療所もあります。人工呼吸器も十分にありませんし。
――PCRや抗体検査などは行っていますか?
政府はPCR検査を拡大させており、地方にも広げています。医療のキャパシティについても対応を進めています。
――新型コロナだと判明した後の対応は?
今までは、感染した人全員を病院に入れていました。しかしキャパシティの問題もあり、50歳以下で症状が軽い人は、病院ではなく、催事場などに仮設された施設に入ります。逆に症状が重い人は、ダカールの中央病院に移動させられています。
――新型ウイルスに効くかもしれない薬の投与はどうですか?
サル大統領はクロロキンの治療を認めました。クロロキンとはマラリア対策薬で、アフリカでは普通に薬局で売っている薬です。加えて、アルテミシアというマダガスカルの植物で作られた薬が、新型コロナに効果があったとマダガスカル政府が発表しました。マダガスカルはそれを西アフリカ15カ国に拡大して提供しています。アフリカが独自に開発した薬を、アフリカでの対策に用いられるのは嬉しいですね。
何事もセネガルの実情にあった対策が必要

――新型コロナで、お仕事に何か影響は受けていますか?
仕事内容次第でしょうか。私は「太陽光事業」「コンサルティング」「コーチング」の3分野で仕事をしています。太陽光については、「ツミキプロジェクト(https://www.tumiqui.com/)」という太陽光パネルと蓄電池、Wi-Fi機能を一体化した携帯できる「ツミキスマートキット」を、アフリカの未電化村落の診療所などに設置して、地方のインフラを整備しようというものです。今度ダカール近郊の経済特区に、このキットを組み立てる工場を建設する予定なのですが、現状のままだと素材が輸入できず、また州をまたいでの移動ができないため、今は我慢の時期です。
さらに、ツミキはセネガル保健省と協業しているのですが、今は保健省のすべてのリソースが新型コロナに割かれているため、実質、事業は止まったままです。コンサルティングについても、やはり新型コロナで停滞気味ですね……。ただ、コーチングについては順調です。新規のフランス人の顧客は増えています!
――デジタル化できる要素がある産業は良いですが、新型コロナで苦戦する分野は多いですよね。
物流とか製造業は苦しいですね。観光業は破綻しています。フランスなどに出稼ぎに行き、セネガルの家族に送金している人たちも、フランスで職を失ったりしています。
今、セネガルでは新型コロナを機会に港の手続きのデジタル化を進めています。ダカール港を運営しているフランスの港湾流通企業ボロレが、セネガルのフィンテック企業インタッチと提携して決済のデジタル化が進められています。サル大統領はデジタル化こそが未来だと言い、それを普及させているところです。教育もオンライン化を拡大させており、学校が閉鎖されていますからテレビやラジオ、インターネットで遠隔レッスンを行っています。
――お住まいの国で、日本についての報道はありますか?
ありません。セネガルでは基本、日本のイメージはいいですよ。トヨタの車がとても普及していて、皆日本の車が好きです。
――他国から支援できることがあるならば、どんなことが必要、または有効だと思いますか?
やはり医療関係でしょうか。あと一般的に言えることなのですが、教育と、現地の実情にあった対策です。というのも、他国の機械や制度を導入したけれどセネガルの実情に合わず、その後、上手くいかなることは多いです。
先ほどお伝えした「ツミキプロジェクト」で地方に行ってもそれらを感じます。たとえば、国際的な支援の人たちが、新しい機械を持ち込んで現地を手伝うとします。彼らがいる時は良いですが、数年を経て地元の人に任せつつ撤退していくと、せっかくの新しい機械が導入されたのにメンテナンスができない、またはしなくなってしまうケースが散見されます。

――せっかくの機会ですので、支援を上手にセネガルの未来につなげたいですね。
新型コロナから少し話題が離れますが、集落内に井戸がなく毎日その村の女性は水を3km先まで汲みに行くいう村がありました。海外からの支援で村の中に井戸ができたのですが、やはり村の女性たちは3km先まで水を汲みに行くんです。なぜかというと、その3kmの移動が、村の中で仕事に追われている女性たちにとって、束の間の息抜きになっていたんです。だから村の中に井戸があっても、女性たちは井戸を使わない。使ってしまったら、次々と任される仕事から逃れる時間がなくなってしまいますから……。
――新型コロナは大変ですが、セネガルの人は現状をどんな気持ちで捉えていると思いますか?
新型コロナのことは心配だと思いますが、セネガルの人は皆明るいです。前向きな運命論者というか、人生がそうだからやるしかないという感じです。

またセネガルには「テランガ」(日本語でいう「おもてなし」)の習慣があって、どんなに貧しい人でも、田舎でも、ご飯になったら「おいでおいで」と必ず誘います。お肉とか野菜などご馳走が乗っていたら、予定されていないゲストにそれをあげてしまう。そんな、とても素敵な人たちです。