職場は在宅勤務OK、収入も安定し、ようやく手の届く場所に来た気がした。
港区、駅近、35階の角部屋。
不動産サイトで見つけたとき、「これだ」と思った。
内見の日、部屋の窓から見えた夜景に心を奪われ、即決。
「この場所から、私の新しい人生が始まる」
そう信じていた。
SNSでは“理想の暮らし”として投稿し、たくさんの「いいね」や憧れの声をもらった。
けれど、完璧に見えたこの生活が、少しずつ崩れていくなんて――この時はまだ、知る由もなかった。
引っ越し当日、段ボールの山を横目に、私は窓際に立ち尽くした。
35階からの景色は想像以上で、東京湾やレインボーブリッジが一望できる。
まるで誰かの人生を借りているような気分。
でもこれは紛れもなく“私の部屋”であり、“私の生活”の始まりだった。
「この景色が、日常になるなんて」
その幸福感に包まれながら、私は新しい暮らしに胸を膨らませていた。