理由は、社内で回覧される書類のチェック漏れ――それ自体は、ちょっとした見落とし程度のものでした。
でも、上司は違いました。まるで待っていたかのように、彼女を責め立てたのです。
「これだからダメなんだ」「やっぱりアイツは…」
周囲に聞こえるような声のトーン。感情のままにぶつけられる言葉。
それは、単なる叱責ではなく“公開処刑”のようなものでした。
「この書類、承認印が抜けてるぞ」
課長が、机にバンッと書類を叩きつけました。
その音に、周囲の視線が一斉に向く――心臓が跳ねるのが自分でも分かりました。
「誰が最終チェックしたんだ? お前か」
「……はい、私です」
「まったく、毎回毎回…仕事が雑なんだよ」
その声は、部署全体に響き渡るほど大きくて。
しかも、わざとみんなに聞かせるようにしているのが明らかでした。
“チェック漏れ”はたしかに私のミス。でも、すぐに修正もできた。
だけど、安西課長の目には“失敗したこと”より“責める材料ができた”という色が見えてしまった。
その日を境に、どんな仕事をしても粗探しされ、
「またかよ」
「お前ってほんとに使えないな」
そんな言葉が、日常のように投げつけられるようになりました。
誰も止めない。誰も目を合わせない。
職場という場所が、ただ“耐える場所”になっていくのが怖かった。