Rさんは心をすり減らしながら、それでも「仕事だから」と自分に言い聞かせていました。
そんなある日、別部署から戻ってきた先輩社員が、ふとした瞬間に声をかけてくれたのです。
それは特別なことではなく、ほんの短いひと言でした。
でも、そのひと言が、Rさんの心に風穴を開けました。
“私のことを、ちゃんと見てくれている人がいるんだ”
そう思えた瞬間、初めて、涙が込み上げてきたのです――。
その日も、Rさんはいつも通り誰とも目を合わせずにコピー機の前に立っていました。
視線を感じると息苦しくなる。だから、できるだけ目立たないように、黙々と仕事をこなしていました。
そんな時、背後から声がしました。
「おつかれ。……最近、ちょっと無理してない?」
驚いて振り向くと、そこには久しぶりに見た先輩の姿がありました。
人事異動でしばらく他部署にいたけれど、以前はよく話していた人。
でも、まさか自分の様子に気づいてくれていたなんて…。
「な、なんでもないです。私、だいじょうぶですから」
そう言った声が、震えていたのが自分でも分かりました。
頬が熱くなっていくのを感じながら、なんとか笑顔を作ろうとしたけれど、
その時、先輩がポンと肩に手を置いてくれました。
「無理しないでね。ちゃんと見てる人、いるから」
たったそれだけの言葉だったのに、Rさんの目から涙が溢れて止まりませんでした。
優しくされることに慣れていなかった自分が、少し情けなかった。
でも、心がふっと軽くなるのを、確かに感じたのです。