「変わってほしい」と言い続けたSさんの声は、夫には届かなかった。
だから彼女は、“変えてもらう”のではなく、“変えにいく”ことにした。
夫を。家庭を。生活を。
そう、これは“私が変わる”物語なんかじゃない。
「あなたの世界を、私が変える」という、全く別の話だ。
朝6時半、目をこすりながらリビングに入った夫は、
テーブルの上に並んだ【保育園の準備】と、【一通の封筒】に気づいた。
中には「育児休業取得届」と書かれた書類。
そしてSさんの文字で、こう添えられていた。
「本日よりあなたは育休に入ります。
会社には私から正式に伝えてあります。
理由は“家庭の事情による交代育児支援”。」
「……は? 何勝手なことしてんの?」
寝起きの夫が慌てて声を上げると、Sさんがキッチンからスーツ姿で現れた。
「勝手? 違うよ。
ちゃんと考えて、準備して、申請して、会社にもOKもらった。
だって、私の人生を“育児専用”にされる理由、もうないから。」
夫は青ざめる。
「……ちょ、待って。俺、仕事あるし、生活はどうすんの――」
Sさんはピシャリと一言。
「生活費は問題ない。
私の方で口座もローンも整えてあるから。
あなたは半年間、しっかり“家族”をやって。」