夫の料理を褒められるたびに、私は自分の価値が削れていく気がしていた。
そしてある日私はその“才能”が、もっと大きく羽ばたこうとしていることを知る。
それは、誇らしいはずのニュースだった。
けれど私は、それを“恐怖”として受け止めてしまった。

週末の朝、遼が何気なく言った。
「実はね、今度料理教室の講師やってみないかって話があってさ」

最初は冗談だと思った。けれど、彼はスマホを見せながら、
「この前のSNS投稿がバズってたらしくて、カルチャーセンターの人が声かけてくれたんだよ」と、笑っていた。

数日後、本当に彼が講師として料理教室を始めるというニュースが、地元サイトに掲載された。



そんな言葉と共に、遼の写真が載っていた。

すごい。誇らしい。嬉しいはずなのに、心の奥では別の感情が渦巻いていた。

「やっぱり、あの人は“私とは違う世界”の人なんだ」

ただ家庭の中で完結していた彼の“才能”が、
誰の目にも届く場所に羽ばたいていくことが、怖かった。

私はますます、何者でもない気がした。