笑顔も、問いかけも、感謝のひと言さえも、もう私たちの間にはなかった。
そんなある日
私は自分でも信じられないことをしてしまった。
それは、心が壊れた音が聞こえた瞬間だった。
その日は、遼が早く起きて朝食を用意してくれていた。
彩りのいいオムレツとサラダ、焼きたてのパン。
まるでどこかのカフェみたいな、理想的な朝ごはん。
「じゃ、行ってくるね。冷めないうちに食べてね」
そう言って、遼は仕事へ出かけていった。
キッチンにひとり残された私は、その料理をじっと見つめていた。
温かさが残るプレート。
でも、それを見た瞬間、どうしようもない衝動に駆られた。
「…もう、無理」
手が勝手に動いていた。
ラップを剥がし、料理をゴミ袋の中に流し込む。
音もなく、オムレツとサラダが落ちていくのを見つめながら、
私は、ただ呆然としていた。
罪悪感も、悲しみも、そのときはなかった。
あったのは“見たくない”という拒絶だけ。