夫の料理を、私は“捨てた”。
あの瞬間、心の中で何かが壊れたのがわかった。
そして、壊れた感情は私の手を使って、
誰にも言えない“形”になっていった

SNSで、遼の料理教室の投稿がまたバズっていた。
「神回!」「わかりやすいし、かっこいい!」
「こんな旦那がほしい」
画面に並ぶ称賛の言葉を見ていると、呼吸が浅くなってくる。

“なんで、あの人ばっかり…”

私は別アカウントを作った。
捨て垢。名前も顔もない、私の“本音”を吐き出すだけの場所。

そこから、私は毎回、彼の投稿にコメントをつけ始めた。



「このレシピ、パクリじゃないですか?」
「家庭のこともちゃんとやってるんですか?」
「えらそうにしてるけど、料理ってそんなに偉いの?」

最初は震える指だった。
でも、3回目には、何のためらいもなく投稿していた。

正義感じゃない。告発でもない。
ただの、私の“嫉妬”だった。

でもそのときは、そうでもしないと心のバランスが取れなかった。