私たちはまず、“距離”を置くしかなかった。
それが、やり直すためなのか、終わりにするためなのか
「しばらく距離を置こう」
そう言ったのは、遼だった。
怒っているわけでもなく、淡々と。
でもその言葉の中には、“再構築”も“決別”も含まれていた気がした。
私は黙ってうなずいた。
その方がいいと、私も思っていたから。
数日後、私は実家の近くの小さなマンションに部屋を借りた。
広くないけど、自分のために選んだ空間だった。
引っ越しの荷造りをしていて、最後に手に取ったのは、
あの「鶏肉のマスタードクリーム煮」のレシピノート。
それをそっとスーツケースにしまった