Aに証拠の封筒を渡したあと、明らかに彼女の様子は変わった。
強気な発言は減り、笑顔の奥に“怯え”が滲み始めた。
彼女はようやく気づいたのだ。
自分がずっと、見られていたことに。

バー「凛」のバックヤード。
営業後の空間に、Aの声だけが響いた。


それまでざわざわしていたスタッフたちの会話が、ピタリと止まる。
Aはひとりで天井の角を見つめ、笑おうとしてーー笑えなかった。

美咲が視線を逸らす。
他のスタッフは何も言わずに清掃道具を片付けはじめる。
その空気が、すでに答えだった。