愛人Aは自白こそしなかったが、誰かに逆らえなかったことだけはわかった。
私が知らない“別の指示者”がいる
その事実が頭を離れなかった。
そしてその夜。私は、想定していなかった方向からの声に、凍りつくことになる。

それは、思いがけない夜だった。
帳簿整理のあと、私は一人で裏口から外に出た。
風が冷たくて、気配ひとつなかったはずの空間で



背後から、男の声がした。

その声には怒りでもなく、感情でもなく、ただ冷たさだけがあった。
私はすぐに振り返ったが、そこには誰の姿もなかった。