このマンションは、誰が住んでいて、誰がいなくなったのか
本当に把握できているのだろうか。
そう思った瞬間、「いなくなったはずの人」がそこにいた。

夜、ゴミ捨てに出たときだった。
エレベーターで下まで降り、人気のない裏手のゴミ置き場へ歩いていくと、
誰かがすでにゴミ袋を持って立っていた。

その後ろ姿に見覚えがあった。
――数日前に「引っ越した」と聞いた住人。

「え、嘘でしょ…?」

暗がりの中、フードを深くかぶっているせいで顔までは見えなかった。
でも、癖のある髪型と、いつもと同じスニーカー――あれは間違いなく、あの人だった。

じゃあなんで、まだいるの?