空室のはずの部屋から感じる視線と物音。
気のせいと思いたかった。
でも、過去の記憶がふと蘇る。
それは、思い出したくなかった“あの人”の姿だった。

「たしか、3503号室は空室って言ってたよね…?」

ずっと誰も住んでいないはずの部屋。
それなのに、廊下を通るたびに、どこか生活の気配がしていた。
視線、物音、光…気のせいと言い聞かせてきたけど、
それが確信に変わる瞬間が訪れた。

マンションの掲示板横に貼られていた「定期清掃のお知らせ」。
なぜかその紙の隅に、住人リストが小さく写っていた。



そこに書かれていた名前。
“安藤 涼”

目を疑った。
かつて付き合っていた元カレの名前だった。
共通する名前など珍しくない。
でもこの字の並び、この表記の仕方見間違えるわけがない。