何もなかったかのような日常が流れ始めた。
…でも、何かがおかしい。
静かに、確実に“境界線”が侵されていく。
「ただの偶然だった」と言い聞かせても、心はざわついていた。
数日経っても、エントランスや廊下で安藤の姿を見ることはなかった。
“本当にただの偶然だったのかもしれない”と、ようやく落ち着き始めていた
その時。
郵便受けから手紙を取ろうとドアを開けた瞬間。
1枚のメモが、ポストの内側に引っかかっていた。
茶色い封筒に挟まれるようにして、白い紙。
たったそれだけの文字。
でも、筆跡を見ただけで誰のものかすぐにわかった。
安藤だ。