“たった5分だけ”そう思って会ったはずだった。
だけど、沈黙の間も、言葉の端々も
あの人は、まだ私を“手の中にいる”と思っていた。


優しげな口調。
でもその目は、微笑んでいなかった。
「いろいろ思い出しちゃってさ」
そう言いながら、彼はスマホを手に取り、画面を見せる素振りをした。
「ほら、前に旅行行ったときの…あの写真、まだ残ってたんだよね」
見せはしない。
でも、どの写真のことかはすぐにわかった。
あの頃、軽い気持ちで撮ってしまった“見せたくない自分”。
私は反射的に体をこわばらせた。

「大丈夫、他の人に見せる気なんてないよ。
ただ、俺にとっては“秘密の思い出”だから」
笑顔のまま、静かにスマホを伏せる彼。
その仕草の裏にあるものが、なにより怖かった。