「今はマッチングアプリの時代だよ」
友人にそう背中を押されて、Fさんもアプリを始めた。
最初の数日は、新しい出会いが始まるような気がして、ほんの少しだけワクワクしていた。

でも、現実は想像以上に冷たかった。
どれだけ丁寧にプロフィールを書いても、笑顔の写真を用意しても、
返事は来ない。マッチしても、会話が続かない。

人と繋がっているはずの画面の向こうが、
どんどん“自分の存在を否定してくる場所”になっていった。

「せっかくプロフィールしっかり書いたのに…」
Fさんは、スマホをテーブルに置いたまま、ぼんやりと天井を見上げた。

最初は、「いいね」が来るたびに少し嬉しかった。
「どんな人かな」と写真を見て、趣味の一致を探して、丁寧にメッセージを送った。



でも、返ってこない。
既読がついてもそのまま。
挨拶だけで終わる人、唐突にタメ口になる人、明らかに遊び目的の人…。

“出会いを求めているはずの場所”で、
Fさんはますます孤独になっていった。

「もう、誰に見られてもいないんじゃないか」
そんな気さえしてきた。

鏡を見ると、目の下にクマ。
メイクをしても、浮かない表情が自分でもわかる。

「“いいね”の数が、価値じゃないってわかってるのに…」
そう思えば思うほど、“選ばれてない”ことが苦しかった。