「この家に嫁いできたんだから」「昔は当たり前だったのよ」
義母のその言葉に、何度うなずいてきただろう。

でも“当たり前”が人を壊すことだってある。
Fさんは、義母の嫁入り道具――桐の引き出しを見つめながら思った。

「これが、この家の象徴みたいだ」

代々受け継がれた“家”という名のしがらみ。
“嫁”という立場に押し込められた自分。
それを守り続けるために、何を犠牲にしてきた?

Fさんは静かに立ち上がり、“ある行動”に出た。


押入れの奥で見つけた、義母の桐の引き出し。
表面は傷だらけで、古びた木の匂いがした。

「これ、お義母さんの嫁入り道具だったんだよ」
昔、夫がそう言っていた。

「うちの家系の象徴みたいなもんだから、
ちゃんと大事にしてやってよ」――と。

“象徴”って、なんだろう。
大事にするって、誰のため?

何十年も前の“女は嫁いで家に尽くすもの”という
考え方が、そのままこの箱の中に詰まっているように思えた。

Fさんは引き出しを抱えて、庭へ出た。
誰にも見られないように、周囲を確認して、
静かに地面に置いた。



その中で、Fさんはライターを取り出した。
手が少し震えていた。
でも、それ以上に心は落ち着いていた。

「燃やしたいと思ってしまった…それが本音だった」