友達もできて、少しずつ“自分の世界”が広がっていくのを感じていた。
ただひとつ、問題がある。
それは、“家”だ。
いや、正確には“母親”だった。
食後のリビングでスマホを触っていたTさんに、母が声をかけてきた。
「いや、大学のデータも入ってるし…」
そう言う間もなく、手元を母が掴んできた。
「開けなさい」
「え、なんで?」
「見せられない理由でもあるの?LINE?男?裏垢?
全部見せて。うちは“隠しごと禁止”って言ったでしょ」
言い返す隙なんてなかった。
ロック解除した瞬間、母の指がスクロールを始める。
LINEの履歴、カレンダー、メモ、写真フォルダ。
使っていないアプリまで開かれ、確認された。
母は言う。
「これは“家族のため”なの。あなたを守ってるの」
でも、Tさんにとってはただの“監視”。
スマホの中まで、“家の所有物”だった。