Tさんには、小さい頃から夢があった。
大学に入って、その道へ近づけた気がしていた。

でも進路希望調査を見た母は…

「私は、編集の仕事がしたい」
進路希望票を前に、Tさんは静かに口にした。

本や物語が好きだった。
自分の手で“誰かの心を動かす文章”をつくりたいと、ずっと思っていた。

でも次の瞬間。
母の手が紙をつかみ、
「……は?」と一言。



「うちは看護師家系なの。
おばあちゃんも、おばさんも、私も。
“人の役に立てる職業”を選ぶのが、うちのルールでしょ」

Tさんは凍りついたように動けなかった。

“役に立つ”って、母の期待どおりに生きることなの?

母はさらに続ける。

「夢って、聞こえはいいけど、
現実見なきゃダメでしょ。
育ててもらったこと忘れたの?」

“恩”を盾に、人生を奪われていく感覚だった。