“自分”がいなくなる気がした。
Tさんは決めた。
逃げるんじゃない。
奪われた分だけ、取り戻しに行く。
母と距離を置きたい。
その一言を口にするのに、3週間かかった。
それでもTさんは、大学のカウンセラーと話し合い、
一人暮らし支援制度を利用できることを知った。
カウンセラーは言った。
「“親から離れる”ことは、
“親を捨てる”ことじゃないよ。
あなたが生きるための手段なんだ」
その言葉に、Tさんは涙が止まらなかった。
ある夜、Tさんはそっと部屋のノートを開き、
母への手紙を書いた。
お母さんへ
今まで育ててくれてありがとう。
でも私は、これからの人生を
“誰かの希望”ではなく、“自分の意思”で歩きたいです。
“いい子”をやめることで、
あなたを傷つけるなら、ごめんなさい。
でも私は、
これ以上“自分”を殺して生きることはできません。」
Tさんはリュックひとつで家を出た。