Nさんは27歳の事務職OL。
誰にでも丁寧で優しい、と言われる。
けれど最近、ある“視線”と“手”に、背筋が凍る瞬間が増えた。

触られているのに、“触られてない”ふりをする。
それが、私の新しい日常になっていた。
「Nさん、ちょっといいかな〜?」
廊下で後ろから呼び止められた。
振り返ると、営業部の課長がニヤッと笑っていた。
「この書類、急ぎでお願いできる?
あ、いや、俺からお願いって言えばなんでもやってくれるよね?」
そんな言葉にいつものように曖昧に笑った、その時だった。
ぽん、と肩に手が置かれる。
(あ、またか…)
でも今回は違った。
手が、なかなか離れない。
会話を続けながら、課長の手はゆっくりと
肩から、背中へ、腰のほうへと移動していった。

「最近の子って、すぐセクハラって言うけど、
Nさんみたいな“素直な子”は好きだよ」
後ろを歩く男性社員が一瞬こちらを見たが、
視線をそらして通り過ぎた。
誰も、何も言わなかった。
Nさんは、笑った。
“作り笑い”という仮面を貼りつけて、その場をやり過ごした。