夜中に聞こえていた謎の物音。
そして、父の日記には“観察されている”という言葉が繰り返されていた。
それはもう、夫婦ではなかった。
父にとって母は「人」ではなかったのかもしれない。
「彼女は私を見ていない」
「記録しているだけだ」
「まるで、私が“どう壊れていくか”を観察する研究者みたいだ」
その文を読んだとき、私は思わずノートを閉じた。
“見ていない”
“記録している”
たったそれだけの言葉なのに、
人と人との関係が完全に壊れていたことが、ひしひしと伝わってくる。
妻として、夫を心配するのではなく、
ただ、記録として「データ化」していくような存在。
私はそれを、他人事として読めなかった。