それは偶然だった。
義母に「古い食器があるから使えそうなら選んで」と言われ、裏庭の物置に向かった。

土埃をかぶった棚をしゃがみ込んで覗き込んでいたその時。
私は、何気なく背後に視線を向けた。

誰かが見ていた。

物置の角。建物の影に隠れるように、ひとり立っていた人影。
麻理恵さんだった。

無表情。いや、違う。
その口元が、ほんの一瞬だけ、笑っていた。

「気のせいかも」と思い直そうとしたが、あの“目”は確かだった。

恐怖ではない。軽蔑でもない。
そこにあったのは、“喜び”だった。

私が困っている姿を、見下ろして楽しむような目。
まるで、私が追い詰められることを期待していたかのような。