結局俺はバイトを辞める決意をした。
この工場で働く最後の日。
俺は静かにロッカーを開ける。少しの期間だったのに、妙に馴染む作業着を放り込む。
タイムカードを押すと、機械が冷たい音を鳴らした。
けれどその音は、何かが終わる音じゃなくて――俺が、ここから抜け出す“唯一の音”。
外に出ると、朝の光が、工場の壁を淡く染めていた。
ポケットに入っているスマホを取り出して画面を見る。
スマホの中には、録音データがまだ残っていた。
サービス残業の強制の証拠。
そしてその下には、労働基準監督署の相談フォームのリンク。


そのはずだった。
でも、指は止まったまま動かない。
頭の中に浮かんだのは、あの時の空気だった。