自分のものをすべて箱に詰め、そこに“私”がいた痕跡を消した。
階段を下りて1階へ向かう途中、ふと納戸の方からかすかな物音がした。
義姉だった。
珍しく背中を丸め、小さな箱を開けて、何かをじっと見ていた。
あの無表情な彼女が、何かに見入っている姿は異様だった。
独り言のようなその声に、思わず声をかけてしまった。
「それ…誰のですか?」
彼女はわずかに振り返り、私と目が合った。
そのとき、初めて、麻理恵さんがほんの少しだけ“人間”に見えた。
「…昔、好きだった人に、もらったの」
彼女の声は、かつてないほど静かだった。