でも、私は黙って終わる女じゃない。
「式、どうするんですか?」
元妻・Sさんにそう聞かれたとき、私は答えられなかった。
でも、その夜、自分の中で何かがはっきりと決まった。
「キャンセルしない」
あの式場は、彼が“嘘の頂点”として演出した場所。
そこで私は、すべてを終わらせる。
翌日、私は式場に電話した。
「すみません、藤島直哉(仮)の婚礼予約の件で…」
「予約のキャンセルですか?」
「いいえ。予定通り、式は行います」
私は担当プランナーと会うために式場へ向かった。
「お色直しのドレスですが、ピンクとネイビーが人気ですよ」
プランナーは優しくそう提案してきたが、私は静かに口を開いた。
「黒、ありますよね?マーメイドラインで」
「え……黒、ですか?」
「はい。白じゃ嘘が透けそうで」
プランナーは一瞬、言葉を飲み込んだ。
「……とても、お似合いになると思います」