近年、消費者の価値観は「モノの所有」から「コトの体験」へとシフトしている。特にコロナ禍以降、製品やサービスそのものの機能的価値だけでなく、それらを通じて得られる感動や学び、人とのつながりなどの「体験価値」が重視されるようになった。

また、既存の画一的な商品ではなく、自分の好みやスタイルにカスタマイズされた商品を求める傾向も強くなっている。このような変化の中で、企業が顧客との関係性を深め、ブランドへの愛着と信頼を育むために注目されているのが「体験型ビジネス」だ。


 住宅業界の例では、注文住宅を主軸事業として手掛ける株式会社AQ Groupが純木造8階建て本社ビル内にオープンした完全予約制のショールーム「ライフデザインミュージアム」がある。同施設は、「実邸に近いリアルサイズで、最新トレンドに合った取り入れやすい仕様」がテーマのショールーム。250㎡超の空間にコンセプトの異なる3つのLDKが設けられ、使いやすいサイズ間取りや動線を体感できる。また、現実的な予算と空間で実現させるための、コスパ、タイパ、スぺパ(スペースパフォーマンス)に優れた工夫やAQ Groupオリジナル設備が随所で確認できる。しかも、水回り設備は定期的に入れ替えられ、常に最新トレンドを体験できるというから驚きだ。「リアルなイメージが湧かない」「将来を見据えた間取りを考えたい」という顧客に向けた、新しい視点の施設となっている。さらに同ビルでは、2024年夏にオープンした「テクノギャラリー(完全予約制)」も稼働中。こちらは合計8つのコンテンツが用意されており、建築材料、構法、耐震性能、快適性能などが見て触れて学べる技術の体験型ショールームとなっている。木造と鉄骨造それぞれのメリット、デメリットなど、失敗しない家づくりの為にも、ぜひ知っておきたい情報が満載だ。


 化粧品業界の例では、化粧品通販を主力とするオルビスが、ブランドの世界観と「ここちよさ」を五感で体験できる場として、2020年に東京・表参道エリアにオープンしたのが、体験型店舗「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」だ。

同施設は、オルビスのアプリ会員であれば無料(利用時間は1人1時間まで)で利用できる。構想から約2年、完成まで約3年もの期間を要してつくられたこのラウンジは、「ここちを美しく」を体験する空間だ。「商品」ではなく「自分自身」を知ることをコンセプトに運営されており、同社の様々なスキンケア商品をタッチアップで試せるほか、スキンケアやメイクを学べるワークショップ、フェイシャルトリートメントなどのサービスも行っている。また、体内から美の土台を整える、新鮮素材のジュースバーや、オリジナル化粧水ボトルの製作などもあり、大人女性のための、美のテーマパークといっても過言ではないだろう。


 ファッション業界の例では、ECサイトのZOZOTOWN初の実店舗として人気を集めている「niaulab by ZOZO(似合うラボ)」がある。この施設は完全予約制で、ZOZO独自のAIとプロのスタイリストが顧客の「似合う」を見つけてくれる、超パーソナルなスタイリングを無料で体験できる施設だ。平均応募倍率は100倍以上という超人気施設で、オープンから2年以上経った今でも応募が殺到しているが、残念ながら6月の受付で一旦閉鎖となるようだ。同社では、これまでに同施設で得た知見やデータを活かし、より多くの人に「似合う」を届けるサービスを提供していくとしており、今後の展開が注目されている。


 体験型ビジネスは、有名企業や一部の先進的な企業だけのものではない。インターネットやAI技術が旺盛に取り入れられる現代社会だからこそ、顧客との繋がりを強化し、長期的な関係性を築く上で、あらゆる企業、業態にとって重要な戦略となり得るだろう。どんなにデジタル技術が発展しても、モノを選ぶのは血の通った人間なのだから。(編集担当:藤原伊織)

編集部おすすめ