2024年度(2025年3月期)の決算で6700億円を超える赤字となった日産自動車の株主総会が6月24日横浜市西区のグローバル本社で開かれた。株主総会では全従業員の15%におよぶ2万人の人員削減や世界で7つの工場閉鎖などの経営再建策が株主の理解を得られるか、注目されていた。
今回の総会で注目されていたのは、憶測を含めさまざま報道されてきた日産の再建策の具体的な決定事項が発表されるのか、という一点に尽きる。背景には、ゴーン氏退陣後の経営の迷走がある。昨年12月に発表したホンダとの経営統合計画が1カ月半で破談したのは象徴的だ。
日産が株主総会で示したのは、机上の計画主導の経営計画だ。これが有効に機能するとは思えない状況だ。何ひとつ新しい発表は無かった。各報道機関がレポートしてきた「計画主導」の再建計画を追認することも無かった。再建を模索する中、計画をどう実行し、どう事業運営で位置づけるのか。日産が再び「再生」するうえで避けられないテーマだ。
昨年末から、このコーナーでレポートした再建策をランダムに紹介する。
■昨年11月7日に日産が発表した2024年9月半期中間決算
2024年9月半期中間決算で、営業利益が前年同期比90.2%減の329億円となるなど、業績の不振が続く。世界での生産能力を2割減らし、グローバルで9000名の人員削減を発表した。
日産の内田誠社長はオンライン記者会見のなかで「厳しい状況を迎えていることは痛恨の極み」だと述べ、業績不振の責任を取り、今月から役員報酬の50%を自主返納すると明らかにした。加えて、この春に発表した中期経営計画で示した販売目標も大幅に下げ、今回100万台におよぶ下方修正となった。
■電気自動車(EV)を巡る合従連衡──ホンダと日産が経営統合か?
ホンダと日産が経営統合に向けた協議を進めているとのニュースが12月18日、報道各社がいっせいに伝えた。電気自動車(EV)の分野で中国などの新興メーカーが先行するなか、経営統合によって巨額の投資を分担し、競争力を高める狙いがあるとみられた。
ホンダと日産は今年3月に自動車電動化などで協業に向けた検討を始め、8月には次世代車に欠かせない車載OSなどのソフトウエアの開発やEVで部品の共通化を進めることで合意していた。今回の報道によると、経営統合によって、さらに連携を深めていくものとしている。
果たして今回の日産+ホンダの提携、スムーズに進むのだろうか?
■日産、1月も世界生産・販売マイナス、決算赤字報告を待たず内田誠社長退任確実
日産の内田誠社長が退任する見通しとなった、と報道各社が伝えた。2月13日に発表したホンダとの経営統合破談を理由に、日産取締役会では内田社長の経営責任を問う声が強まっている。
日産は2月27日、2025年1月のグローバル生産・販売実績(速報)を発表。それによると前年同期比で生産が11.3%減、販売が5.9%減と大幅に落ち込んだ。2025年1月までで世界生産は前年同月比で8カ月連続マイナス、世界販売は10カ月連続マイナスと苦戦が続きだ。
■日産、社長交代直前にインフィニティを含めた新商品・新技術投入計画発表
苦境に喘ぐ日産自動車が3月26日、「日産とインフィニティ両ブランドの新商品と新技術の投入計画」を発表した。
発表した今後の施策の目的は大きく3つ、まず「新型車とマイナーチェンジ車でセグメントのカバー範囲を拡大し、ラインアップの活性化」を図る。第二に「e-POWERを含む次世代技術で商品競争力を向上」を目指す。そして、「市場毎に顧客ニーズに沿った最適な市場戦略を導入」するとしている。
次期日産社長・現チーフプランニングオフィサーのイヴァン・エスピノーザ氏によると、「今後2年間で、新型『リーフ』や新型『マイクラEV』を含む魅力あふれる商品ラインアップを構築。さらに、SUVのラインアップを刷新し、運転体験を向上させる。
e-Powerも改良版が出るようだ。第3世代のe-POWERは、効率の大幅な改善により、現在の第2世代システム比で高速走行時 の燃費を最大15%向上させることを目指す。新しいe-POWER専用1.5リッターEngineを採用し、日産の最新のEVパワートレーンと主要部品を共有する。この第3世代e-POWERシステムは、 2025年度後半に欧州の「キャシュカイ」から搭載され、2026年度には日本市場向けの大型ミニバンに搭載される予定だ。
■15年ぶりにフルモデルチェンジ 上級ミニバン、エルグランドは日産の救世主たり得るか?
エルグランドが劣勢を跳ね返すべく、15年ぶりにフルモデルチェンジすることが正式に発表された。日産が一部ティーザー画像を公開した。
日産によれば、4代目となる新型エルグランドは、第3世代となる日産得意のシリーズ型ハイブリッドシステム e-POWER を搭載し、今年度後半に公開、2026年度の発売を予定するという。
第3世代e-POWERは、新開発となる発電専用1.5リッターエンジンと、モーターやインバータなど5つの部品を一体化することにより軽量化した「5-in-1」モジュール方式を採用し、大幅な静粛性と燃費の向上を実現するという。第2世代までのe-POWERの弱点とされた高速域でのドライバビリティと燃費が改善される新システムだという。
■新たな「ルノー日産」アライアンス、持株比率を相互に10%に引き下げ、日産のアンペア社への投資も解消
仏ルノーと日産は、相互株式保有の柔軟性を高める目的で、アライアンス契約の改訂に合意したと発表した。双方のロックアップ義務を10%(現在は15%)とし、それぞれの株式保有率を10%まで引き下げる権利を有する。
結果として現在のルノーの時価総額を基にすると日産は5%のルノー株売却で約6億9000万ユーロ(直近のレートで約1100億円)の資金が得られる勘定となる。
■2024年度通期決算を発表 売上高12兆6332億円、当期赤字6709億円
日産自動車は、2024年度通期および第4四半期決算を発表した。報告によると2024年度は多くの市場における販売競争の激化により、日産の世界販売台数は334万6000台だった。2024年度通期の連結売上高は12兆6332億円、連結営業利益は698億円、売上高営業利益率は0.6%となった。当期純損失つまり赤字は6709億円、自動車事業のフリーキャッシュフローと同営業利益は通期で赤字となった。
また、国内工場の閉鎖に踏み切る方針も発表。世界に17ある車両工場を2027年度までに10工場に減らし、国内も閉鎖対象だ。加えて国内を含む世界で従業員2万人を削減する。
■Bセグメントの意欲作「マイクラBEV」欧州発表 2025年末までに欧州で発売
日産自動車は、6世代目となるBセグメントの意欲作・新型「マイクラ」(過去日本名:マーチ)を2025年後半に欧州市場で電気自動車(BEV)として発売すると発表した。
新型「マイクラ」は今年後半に欧州で販売開始の予定だ。日本での発売、「e-Power」などパワートレーンの違う仕様は無いのか? まったく未知数だ。
■リストラ費用捻出のため資産売却、グローバル本社ビル1000億円で売却か?
経営再建中の日産自動車は、既報のとおり同社の追浜工場(横須賀市)と子会社・日産車体の湘南工場(平塚市)について閉鎖も含めて検討している。完成車工場は、B2Cメーカーである日産にとって生命線。工場が閉鎖されれば部品製造会社などの県内企業への影響も甚大だ。日産自動車と直接、間接を含めて取引のある神奈川県内の企業は1700社あまりに上るという。消費財メーカーである自動車会社が商品の生産設備である工場を閉鎖するというのは、かなり切迫した状況が想像できる。
そのような中、日産自動車は2026年3月期に追加発生する見込みのリストラ費用約600億円を捻出するため、資産売却計画の一環で横浜市西区みなとみらい地区のグローバル本社ビルの売却も検討していると報道各社が伝えた。
売却額は1000億円規模になると見込まれている一方、日産は本社ビルを売却した後に“リースバック”方式で賃貸契約を結び、建物への入居は続ける見通しだ。
■日産、中国現地法人開発のBEVセダン「N7」の受注好調
再建中の日産は、2024年4月の中国・北京モーターショーで発表した電気自動車(BEV)セダン「N7」の受注が、発売約1カ月で1万7215台に達したと発表した。同じクラスのBEVセダンでトップクラスの販売を記録したという。
低迷する中国市場で日産が反転攻勢を目指すキーモデルになるとして期待を込める。
N7は日産と中国・東風汽車の合弁会社の東風日産乗用車公司(DFN)が開発を主導した初めてのモデルで、11.99万元(約238万円)からというリーズナブルな価格で4月27日に発売した。これまでと異なり現地が主導して開発期間を短縮。地場企業の部品を使ってコストを下げた。
冒頭でも述べたが、日産が株主総会で示したのは、業績回復への決意や覚悟だけで、机上の計画主導の経営再建策だ。これが有効に機能するとは思えない。残念だが、何ひとつ新しい発表は無かった。