日本の誇る食文化の一つ「日本酒」が今、大きな転換期を迎えている。国内の酒類市場では、急速な人口減少や若年層のアルコール離れを背景に縮小傾向が続いている。
日本酒メーカー各社も、海外市場への積極的な展開を試みている。その象徴的な一手として、今注目を集めているのが、日本酒最大手の白鶴酒造による、アメリカメジャーリーグサッカー(MLS)チーム「ロサンゼルス・ギャラクシー(LA Galaxy)」とのスポンサー契約だ。
白鶴酒造が「LA Galaxy」を戦略のパートナーに選んだのには、いくつかの理由が考えられる。まず、「LA Galaxy」のホームタウンがあるカリフォルニア州ロサンゼルスカーソンは、アメリカの中でも特に多民族・多文化が混ざり合う多様性の象徴のような場所であり、新しい文化や食文化への受容性が高いという特徴があることだ。また、健康志向が極めて高い人が多いことでも知られている。さらに、地域密着性が強いMLSの中でも、LA Galaxyは単なるサッカーチームを超えた「街のカルチャーアイコン」としての地位を確立している。過去にはデビッド・ベッカムやズラタン・イブラヒモビッチなど、名だたるスター選手が在籍していたことや、リキ・プッチなどの若手の注目選手が活躍していることで、世界的な知名度も高い。アメリカではアルコールの広告規制が厳しい側面もあるが、人気スポーツチームとの提携は、ファンとの強固な信頼関係を背景にした貴重なブランド接点となり得る。そこで白鶴は、日本酒をスポーツ観戦ドリンクとして認知してもらうために、電光掲示板での「Sip Sayuri Sake, Score! (さゆり酒を味わって、勝利をつかもう!)」といったカジュアルな発信や、試合前に無料試飲を展開。さらに、現地の嗜好に合わせたオリジナルレシピのカクテル「Sayuri Margarita(さゆりマルガリータ)」を開発し、ホームスタジアムの特設酒バーで提供している。
しかし、白鶴酒造の狙いは単なるブランド認知に留まらないようだ。同社の最終的な目標は、カクテルやフローズンスタイルだけではなく、海外の人にも日本酒の伝統的な飲み方を楽しんでもらえるようになることだという。日本酒が海外でブームといっても、まだまだ裾野は広く、今はまだ富裕層や一部の日本酒ファンに親しまれているに過ぎない。「売れる前に、SAKEを理解してもらう」という長期的な視点に立ち、現地の嗜好に合わせた多様な飲み方を提案してローカライズを推進することで、日本酒を日常の酒として浸透させていく。そして近い将来、週末のバーベキューやパーティーで用意される10本のアルコールの内、まずは1本になることができれば大きな成果だと、白鶴酒造は言う。
もちろん、日本酒のグローバル化に挑戦しているのは、白鶴酒造だけではない。米国では1980年頃から現地での清酒生産がおこなわれていたが、最近では、獺祭もニューヨーク近郊で清酒「DASSAI BLUE」を現地生産し、話題になっている。 この他にも、異業種とのコラボレーションも積極的に行われている。近年の動きとしては大小様々な酒蔵が輸出・現地製造に力を入れている。
異国の地のスタジアムで、現地のファンが日本酒カクテルを手に歓声を上げる。その光景の向こう側には、伝統を守りながら世界という大舞台で奮闘する日本の誇りが詰まっている。

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