日本の産業界の命運を握る「2ナノ半導体」の開発が、実用化に向けた最大の関門である資金確保の局面を迎えている。北海道千歳市で建設が進むラピダス(Rapidus)のプロジェクトに対し、政府はこれまでの直接補助に加え、民間融資を円滑にするための「政府保証」を盛り込んだ新法案の準備を進めてきた。

しかし、2026年1月23日の通常国会冒頭での衆議院解散により、法案の成立は選挙後の新布陣による国会審議へと持ち越されている。


 そもそも「2ナノ(ナノは10億分の1メートル)」とは、半導体の回路の細さを示す指標だ。数値が小さいほど回路が微細になり、一つのチップにより多くの計算素子を詰め込める。2ナノ世代は、現在主流の先端品(3ナノ~5ナノ)に比べ、処理速度が大幅に向上する一方で、消費電力を約2割から3割削減できると期待されている。


 この微細化が次世代インフラにおいて重視される最大の理由は、爆発的に増大するAIの消費電力への対策だ。生成AIの普及に伴い、世界のデータセンターが消費する電力は数年以内に国単位の消費量に匹敵すると予測されている。電力供給の拡充や光技術(光電融合)の導入など多角的な解決策が模索されているが、その中でもチップ自体の省エネ化を実現する2ナノ半導体は、もっとも即効性が高く、持続可能なAI社会を支える中核技術の一つと位置づけられている。


 具体的な用途は多岐にわたる。データセンターでのAI処理はもちろん、完全自動運転の実現にも不可欠だ。車載AIが瞬時に判断を下すための演算能力を確保しつつ、電気自動車(EV)の航続距離を維持するには、電力効率に優れたチップが欠かせない。また、スマートフォンのバッテリー駆動時間を延ばし、より高度なAR(拡張現実)体験を可能にするなど、私たちの日常を支えるあらゆるデバイスの進化を左右する。


 ラピダスの目標は、この世界最先端のチップを2027年に量産することだ。

2024年11月に政府が打ち出した「AI・半導体産業基盤強化フレーム」では、2030年度までに10兆円以上の公的支援を行う方針が示された。これを受け、本来であれば今国会で、政府系機関による民間融資への債務保証や国による直接出資を可能にするための法整備がなされる予定であったが、衆院選(2月8日投開票)により、その行方は新政権の舵取りに委ねられることとなった。


 量産ラインの構築には総額で約5兆円という巨額資金が必要だ。これまでに決定した約9,200億円の補助金に加え、新法案によって民間金融機関から兆単位の資金を呼び込めるかどうかが、プロジェクトの成否を分ける。


 地政学的リスクが高まる中、社会インフラの心臓部である先端半導体を自国周辺で確保できる体制を持つことは、経済安全保障上の最優先課題である。2027年の量産開始というゴールに向け、選挙後の政治決断が日本経済の未来を決定づけることになるだろう。


 巨額の血税を投じるこのプロジェクトは、単なる産業支援の域を超え、私たちの生活を豊かにし、持続可能なものにするための「未来への投資」と言い換えることもできる。世界の半導体競争が秒単位で進む中、迅速な法整備と民間マネーの流入を実現し、日本の技術力が再び世界を驚かせる日は来るのか。明日には誕生する新政権の舵取りと、日本経済の「再生」を占う戦いの行方を、私たちは注視していく必要がある。(編集担当:エコノミックニュース編集部)

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