かつては「成功の証」であった東京都心の本社ビル。しかし、オフィス賃料の高騰や働き方の変化、災害リスクへの懸念などから、今、多くの企業が東京を離れ、新たな拠点を求めて動き出している。
企業はなぜ、東京を去ろうとしているのか。
主な理由と考えられるのはまず、圧倒的なコスト削減だろう。長引く物価高も相まって、都心の賃料は上昇を続けており、固定費が経営を圧迫。郊外や地方へ移ることで同じ予算でも数倍の面積を確保できる上、将来的なコストダウンも期待できる。
また、深刻な人手不足の中、通勤ストレスの緩和や「豊かな住環境」を提供することが、優秀な人材を引き止める強力なカードになっていることも大きい。東京から離れることで、DX化と働き方改革の両立が可能なのだ。さらに、BCP対策(事業継続計画対策)としても有効だ。本社機能を移転、分散させることで、首都直下型地震などの災害に備え、事業継続性を高めることができる。
こうした流れの中、単なるコストカットを超えた戦略的な移転事例が注目を集めている。
その一例として、木造注文住宅「アキュラホーム」を展開するAQ Groupの事例がある。
また、パソナグループも、2020年に本社機能の一部を淡路島に移転している。
同社は、1995年の阪神淡路大震災での支援をきっかけに淡路島と親交を深め、2008年からは農業・観光事業で地域貢献を続けてきた。そんな中、2020年以降のコロナ禍を契機に、テレワークの普及と東京一極集中の問題解決のため、本社機能の一部移転を決定。これまでも自然を活かしたテーマパークの立ち上げや、県立公園のプロデュースなど、パソナは淡路島で多くのプロジェクトに携わっているが、その経験を活かしつつ、淡路島が持つ地域性や地域の課題をITを活用して解決し、雇用も生み出す取り組みを続けている。
また、若い世代にも注目されているのが、2022年に静岡市に制作スタジオを設立したアニメ制作会社シャフト(Shaft Inc.)だ。「魔法少女まどか☆マギカ」や「〈物語〉シリーズ」などの人気アニメの制作でアニメファンや学生からも絶大な支持を得ている同社。
情報が集まる東京にいないと勝負にならないと言われた時代は過ぎ去り、今や東京は「必須」ではなく「選択」の時代になりつつある。企業のDX化も進み、物理的な場所の制約も消えつつある中、自社の強みを最大化できる場所を選び、コストを「体験や研究」へと再投資する「戦略的な東京ばなれ」の動きは、今後益々、加速していくのではないだろうか。そしてそれは、日本の企業文化をより多様で強固なものへと変えてくれるはずだ。(編集担当:石井絢子)

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