今回のニュースのポイント
・構造的なコスト増が「底」を押し上げている: 今回の物価高は、一時的な輸入コスト増に加え、人件費や物流費など、下がりにくいコストの上昇といった構造的な要因も背景にあると指摘されています。原材料価格が一部で落ち着いても、すぐには値下げに踏み切りにくい企業も多いのが現状です。
・「メニューコスト」というハードル: ラベルの貼り替えやPOSレジ・ECサイトの設定変更など、一定の手間と費用(メニューコスト)がかかります。そのため、頻繁な改定は避け、一度上げた価格を比較的長く維持しようとするインセンティブが働きやすくなります。
・高めの価格水準による利益確保: 多くの中小・大手企業にとって、値上げに踏み切ることは、長年の慣行を変える大きな決断でした。一度下げてから再度値上げする際の反発を考慮し、高めの価格水準を維持しながら利益率の維持・改善を図ろうとする動きが、一部の業種や企業でみられます。
「原材料の価格が一部で落ち着いてきたというニュースを聞くのに、身近な商品の値段はなかなか下がらない」。そんな実感を抱く場面が増えています。
日本企業の多くは、長く「価格を据え置くこと」を一つの慣行としてきましたが、近年の原材料高やエネルギー価格の急騰を受け、多くの企業が相次いで値上げへと舵を切りました。しかし、一度上がった価格はなかなか元には戻りません。経済学で「価格の下方硬直性」と呼ばれるこの現象には、企業側の多角的な思惑が働いています。
背景の一つとして、コストの中身が「一時的なショック」から「構造的な上昇」を含むものへと変化していることが挙げられます。日銀や内閣府などの分析でも、人件費やエネルギー関連費用といったコストの上昇が、最近の物価高の背景として指摘されています。原材料が数%安くなった程度では、これまで内部努力で吸収してきたコスト増を相殺しきれず、価格を据え置いたり値上げ分を維持したりして、利益率の維持・改善を図る企業も少なくありません。
また、価格を変えること自体にコストがかかる「メニューコスト」の存在も無視できません。ラベルの貼り替えやPOSレジ・ECサイトの設定変更などには、一定の労力と費用がかかります。そのため、小刻みな値下げを行うよりも、一度上げた価格を維持し、将来のコスト変動に対する「バッファ(ゆとり)」を持たせておく方が、経営上の判断として選ばれやすくなります。
さらに、企業側の心理的な側面も価格設定に影響しています。日本企業にとって、値上げに踏み切ることは、長年の慣行を変える大きな決断でした。一度下げてしまえば、再びコストが上がった際に「また値上げか」という顧客の強い反発を招くリスクがあります。今の価格は、簡単には下げたくない水準として意識されている面もあります。
こうした企業の動きは、家計にとっては「生活コストの高止まり」として影響します。賃金の伸びが物価に追いつかない中では、この高止まりが消費を抑制し、結果として企業の売り上げにも影響を与え、需要面から「物価・賃金の好循環」を損なうリスクがあるとの指摘もあります。
こうした統計や調査を踏まえ、一部の調査や企業ヒアリングでは、価格を「動かさないもの」とみなす発想から、コストに応じて見直す発想へとシフトしていくとの見方も示されています。本稿は日本全体の傾向を概観したものであり、業種や企業によっては、値下げやキャンペーン、サービス改善など、異なる価格戦略をとるケースも少なくありません。これまでより高い水準で定着しつつある物価のもとで、家計と企業の双方がどのように対応していくのかが問われています。

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