今回のニュースのポイント
・春闘統計のカバレッジに注意: 連合の第1次集計で中小も5%前後の回答が相次いでいますが、これは労働組合がある企業が対象。組合のない小規模事業者や非正規雇用層の状況は、この数字からは見えにくいのが実情です。
・価格転嫁力の差が原資を分ける: ブランド力を持つ大企業がコスト増を価格に転嫁し賃上げ原資を確保する一方、交渉力の弱い中小企業はコスト増を自社で吸収せざるを得ず、原資不足に直面しています。
・雇用形態による上昇幅の乖離: 正社員中心のベア(ベースアップ)に対し、パートやアルバイトの時給上昇は最低賃金改定の影響を強く受け、春闘の「5%」とは水準やタイミングが異なるケースが少なくありません。
賃上げ報道の増加と「実感のズレ」
「歴史的な賃上げ」「30数年ぶりの高水準」――。連日のように高い賃上げ率を示す見出しがメディアを賑わせています。しかし、その報道を眺める人々からは「自分の給与はそれほど上がっていない」「物価高で実質的にはマイナスだ」といった声も根強く聞かれます。こうした実感のズレは、賃上げの波が「大企業・正社員」と「中小企業・非正規」で受け止め方の差を生みやすい構造になっていることが背景にあります。
連合集計「5%」の対象と実態の乖離
連合(日本労働組合総連合会)の2026年春闘第1次集計では、組合がある企業を対象にした平均賃上げ率が5%超となり、大企業で5%台半ば、中小企業の組合でも5%前後の回答が相次いでいます。一見すると「中小にも賃上げの波が波及した」ように見えますが、注意が必要です。日本では雇用の大部分が中小企業・小規模事業者に集中している一方で、こうした企業の多くには労働組合がなく、そこで働く人々の賃上げ状況は春闘統計からは見えにくいのが実情です。また、パートやアルバイトなど非正規雇用の多くは春闘の直接の交渉対象外であるケースが少なくありません。
構造(1):価格転嫁できる大企業 vs できない中小
賃上げの原資を左右するのは、仕入れコストの上昇を販売価格に反映させる「価格転嫁力」です。大企業は強力なブランド力や市場交渉力を持ち、原材料費や人件費の増分を顧客に転嫁しやすい環境にあります。
構造(2):利益余力と雇用形態による上昇幅の差
円安や海外需要を背景に過去最高益を更新し、一定の内部留保を持つ上場大企業には、将来の投資として賃金を引き上げる余力があります。一方の中小企業はもともと利益率が低く、わずかなベアでも経営を圧迫しかねません。 さらに、賃上げの動向は雇用形態によっても分かれます。正社員のベアに対し、非正規雇用の時給上昇は最低賃金の改定などを通じて行われることが多く、統計に表れる「5%賃上げ」とは上昇の仕組みや水準が異なるのが一般的です。これにより、同じ物価高の下で、実質的な購買力の伸びに差が生じやすい構造となっています。
影響と今後:格差を伴うインフレへの対策
こうした賃上げ格差を伴うインフレが続けば、購買力の伸びが一部の層に偏り、社会全体の消費を押し下げかねません。また、賃金格差が固定化されることで、中小企業から大企業への人材流出が加速し、地域経済の基盤が揺らぐ懸念も指摘されています。 政府は現在、中小企業の価格転嫁や生産性向上を後押しする「新しい資本主義」の行動計画や、中小の賃上げを支援する5カ年計画の中で、取引適正化、賃上げ企業への税制優遇、IT投資への補助金などを打ち出しています。結局のところ、日本経済が持続的な成長を実現できるかどうかは、統計上の数字だけでなく、雇用のマジョリティを占める中小企業や非正規雇用層の所得を、いかに物価上昇分以上に底上げできるかが重要なポイントとなります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)

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