自動車の自動運転技術がいよいよ本格化してきた。矢野経済研究所が5月8日に発表したADAS(先進運転支援システム)及び自動運転システムの世界市場の調査報告によると、2018年の世界搭載台数は、前年比24.3%増の2385万4000台。
しかしながら、この予測を実現するには、未だ大きな問題が立ちはだかっている。それが「レベル3の壁」といわれるものだ。現在普及しているレベル1やレベル2のシステムは、自動運転技術とはいえ、ドライバーが主体の高度な運転アシスト機能といわざるを得ない。それに比べて自動運転技術のレベル3は、限定された条件や、緊急時には運転者が操作を行う必要はあるものの、基本的にはシステムが全ての運転タスクを実施してくれる。一般的なユーザーが想起する「自動運転」とは、このレベル3以上なのではないだろうか。
技術的には、レベル3はすでに不可能なものではなくなっている。2017年夏には、アウディが史上初のレベル3を実現する「Traffic Jam Pilotシステム」 を搭載した新型「アウディA8」を発表して大きな話題となった。ところがその後、国内外で法整備が整っていないことを理由に、レベル2に機能をとどめた車を発売している。 ゼネラル・モーターズでも自動運転車の開発強化を目的に米国のクルーズ社を買収したり、2017年からは高速道路限定の手放し運転機能の採用などを進め、これにホンダやソフトバンクが巨額の出資を行うなど、業界全体がレベル3の導入に向けてにわかに活気づいているものの、各国の法整備がそれに追い付いていないのが現状だ。
とはいえ、レベル3の国際的な技術標準化へ向けてすでに主導権争いが始まっているのも事実だ。自国の自動車メーカーや部品メーカーが自動運転分野において国際競争力を確保するためには、自国の法や自動運転技術を国際基準・標準として展開することが重要となる。日本政府もレベル3の実用化に向け、今年3月8日に「道路交通法の一部を改正する法律案」と「道路運送車両法の一部を改正する法律案」を閣議決定しており、今国会に提出して年内成立を目指している。
国際的に主導権を握るためには、法整備もさることながら「レベル3の壁」を乗り越え、使用者を納得させるだけの「安心」と「安全」につながる技術・機能の標準化も必要だ。各国は国際標準化機構(ISOなど)で自国発の規格が採用されることを目指しており、2016年には日本発の自動運転向け国際規格として「ISO 14296」が発行されるなど、日本も積極的に動いている。
一方、自動車メーカー、部品メーカーにおいては、策定された国際規格への迅速な対応が求められている。自動運転の国際規格として「ISO 26262」などがあるほか、自動運転に限らず基本的な車載用電子部品の信頼性にかかわる規格もある。随時アップデートされるこれらの規格に準拠し、部品レベルで安全を確認することが、自動車の信頼性をつくりあげる。
例えば、ロームが5月に発表した1200V 耐圧の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGTB)「RGS シリーズ」は、車載アプリケーションのインバータ回路やスイッチ回路に最適な、業界トップクラスの低導通損失を実現した、わずか1.5センチメートル程度の小さな半導体だが、車載用電子部品の信頼性における世界規格である「AEC-Q101」に準拠していることを明記している。自動運転の国際規格「ISO26262」などと同様に、今後、自動運転技術レベル3が実用化された際には、こういった小さな部品一つ一つに至る安全性と信頼性がますます求められることになるだろう。
今後の世界市場で主導権を握れるかどうかは、性能や機能面だけでなく、より安全で安心できる自動車であるかどうかだ。