日本記念日協会の推計によると、クリスマスの市場規模は約7000億円。バレンタインが約1260億円、ハロウィンもここ10年ほどの間に約1240億円にまで大きく成長した。
ロマンティックなイベントならば、日本には古くから伝わる「七夕」がある。織姫と彦星の物語の元は中国発祥の「牛郎織女(ぎゅろうしゅくじょ)」という夫婦の神話だし、笹に願い事を書いた短冊を捧げるのも奈良時代に伝来した「乞巧奠(きこうでん)」という中国の風習が変化したものと言われているが、日本にも元々、乙女が着物を織って棚に供え、豊作祈願やけがれを祓うための神事「棚機(たなばた)」があった。現在の七夕は、いわばこれらの合わさったものといわれているが、とはいえ、日本での歴史はクリスマスよりもはるかに長い。しかも七夕は、3月3日の上巳、5月5日の端午と並び、一年間の重要な節句をあらわす五節句の一つでもあるのだ。それなのに、七夕はイベントとしては今一つ盛り上がりに欠ける。日本古来の行事である上に、愛し合う織姫と彦星が一年に一度逢うことが叶うという、この上なくロマンティックな日なのに、だ。
では、どうして盛り上がらないのか。大きな理由の一つは天候だろう。現在の七夕、つまり7月7日は全国的にまだまだ梅雨の明けていない地域が多い。織姫と彦星の逢瀬の舞台となる天の川どころか、夜空には暗雲が広がっていることが多い時期。
市街地では夜中でも煌々と明かりが灯っている。しかも、最近では大気汚染の影響もあり、夜空を見上げても数えられるほどの星しか見えない。2017年からは、環境省も光害や大気汚染への関心を深めてもらおうと星空観察と調査報告を呼びかけているが、一般的に認知されているとは言い難いのが現状だ。このままではいつの日か、天の川自体が伝説になってしまうかもしれない。
ちなみに、環境省が「光害対策ガイドライン」を策定したのが1998年。
星と符合する話では、幻の星座「ミツバチ座」というものもある。幻とはいえ、実はこの星座は今でも「ハエ座」として存在している。16世紀以降に作られた星座なので神話はなく、そもそも南天の星座なので、日本の大部分の地域では星座の一部も見ることができない。そのため、日本ではハエ座の存在すらも知らない人の方が多いかもしれない。
もともとは、オランダの航海士の情報をもとに、ドイツの天文学者ヨハン・バイエルが1603年に刊行した星図「ウラノメトリア」にミツバチ座と記したのが最初といわれているが、その後、他の星座との標記の誤認を防ぐという理由で何度か変名され、その末、18世紀に入ってフランスの天文学者・ラカーユが「ハエ座」と記したことでそれに落ち着いたといわれている。経緯を知れば、幻でもなんでもない話だが、昨今の環境問題と照らし合わせると嫌な符合が浮かび上がる。
ミツバチはご存知の通り、蜂蜜やローヤルゼリーなど、人間の健康や美容にも有用な物を生産するだけでなく、農作物をはじめ、様々な野生植物の重要な花粉媒介者「ポリネーター」だ。生態系の多様性や自然環境の維持にも大きく貢献している。一方、ハエは人間にとってはミツバチとは真逆の存在で、死や腐敗に群がるイメージが強く、病原菌を媒介する害虫でもある。
そしてここ数年の間に、世界各国でミツバチの不足が問題に上がっている。
七夕の話も、ミツバチ座の話も、荒唐無稽と思われるかもしれない。しかし天文学は自然科学として最も古く、古代から発達してきた学問だ。いわば人類の歴史は星と共に歩んできたといっても過言ではないだろう。天の川が伝説となる前に、我々は今一度、夜空を見上げて考えるべきなのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)