【写真】いよいよハリウッドデビュー、撮影現場でのニコラス・ケイジと園子温監督【12点】
【前編はこちら】園子温がニコラス・ケイジ主演でハリウッド進出「メジャー感クソくらえ、世界中が驚くものを」
──本作は、言わば“園子温の作家性”を楽しむ作品。メジャー系シネコン全盛の日本映画の潮流にはかなり逆行していますよね?
園 僕にとって、日本映画は(世界の中で)もはやある種のジャンルなんで、なんか珍しい生きもの、珍獣って感じなんですよね。多くの日本人からすると、珍獣は僕の方なんだろうけど(笑)。ベクトルが全然逆方向に行っちゃったんだろうね、お互いが。日本は映画にしろ、音楽にしろ、文化的には独自の歴史を歩みだしてるんじゃないかな。
すでに映画の趣味嗜好も、だいぶ世界とは離れちゃってる。まぁ、僕も60歳手前になって優しい人間になってきたから、うるさいことは言わずに「そういう映画もあっていいんだよ」言うようにはしてますけど(笑)。
──とはいえ、たとえば『TOKYO TRIBE』のように“園子温カラー”を出しながらも、メジャー作品として成功した作品もありますよね。
園 まぁ、確かに。実際、あれを撮ったから今回の作品があるってところもあるんですけどね。あのときは、リアルな街が舞台になっているのに、渋谷もどこもかしこもぜんぶセットで撮っていて。渋谷でも何でもないじゃんっていう世界観にあえてした部分はあるんだけど、あれをさらに拡張したのが今回の『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』なのかなって。
──ご自身としては、もうメジャーな日本映画側に寄せることも今後はしないと?
園 ハリウッドで撮り続けると同時に、これからも日本ではずっと撮り続けようと思ってるけど、日本におけるメジャーな作品ってものを目指す気はまったくなくて。ハリウッドではスケールを狙いながら、日本ではより自主映画的なものを撮っていきたいな、とは思ってますね。
たとえば、俺は、さだまさしの新譜が部屋に置かれていて、ディスクもセッティングされてまさに再生ボタンを押すだけだって言われてもやっぱり押せない。ヤダなって(笑)。とにかくメジャーなもののそばにあんまり寄らないようにしようかなと。飛行機での移動中なんかに、(日本映画を)「今日こそ観ようか」って思うときもあるんだけど、やっぱり観ないで終わっちゃうしね。
──ちなみに、本作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の予算についてはいかがですか?
園 額を言って「なんだ、カネねぇのかよ」みたいになっちゃうのも困るんですけど、限られた予算の枠の中でどんだけ目立つかを考えるのは、僕、得意技なんで。無いなかでも見た目のスケール感は出せるようには頑張ったつもりです。それって、ハリウッドの超メジャー作品でも普通にあるし、そういうときに発想するものってやっぱり面白いものが多いしね。
あとはまぁ、もう一つ、心がけたのは日本の有名人を入れないこと。日本を舞台にこういう映画撮るってときにそれをやっちゃうと、途端に日米合作の匂いがムンムンしちゃうしね。日本の配給会社的には「いや、入れてくれよ」って感じだとは思うけど、でも入れたくないなって。
──個人的には、ニコラス・ケイジと坂口拓さんがガッツリ戦う、というだけで胸アツでしたが(笑)。
園 そうそう、坂口拓がいいんですよ。むしろ彼じゃないとダメ。世界で見せる映画なのに、日本でしか有名じゃないキムタクを出したってしょうがないじゃない? これは完全に日本映画じゃないんだよ、ってそういう感じにしたかったんです。栗原類くんなんかは一般的な知名度もあるけど、彼はもともとただの飲み友達だしね。(渡辺)哲さんもそうだけど、基本知り合いしか出てないです。
──ラストシーンも含め、いまの日本の現状に対する皮肉が込められているのかな、と思わせるシーンも随所にありましたよね。
園 日本でやる意義という部分で、ヒロシマやフクシマというのも取り込みたいなっていうのはやっぱりあって。だから、劇中に登場するクロックタワーって、ちょっと原爆ドームに雰囲気が似てるでしょ? あれの文字盤の時間って、広島の原爆が落ちた時間の1分前で止まってるんです。みんなで綱引きしながら「動かしたら危ない」って言っているのは、前に一回爆発したから、二度目は食いとめるっていう、そういう裏の意味があるわけです。
ちなみに、全身白スーツのガバナーも、ケンタッキーフライドチキンのおっさんをイメージした衣装。
──裏設定を予習してから観ると、また違った見方もできそうです。では最後に、園さん自身の今後の野望などをお聞かせいただければ。
園 夢は、アル・パチーノとか(ロバート・)デ・ニーロとかをみんな日本に呼んで、ゴールデン街というよりは、渋谷の居酒屋チェーン店で2時間飲み放題とかのやつを堪能させたいなって。そこにニコラスがいれば、もうこれ、コッポラファミリーみたいなもんだしね。なんでも作れちゃう気がしてくるよね(笑)。
──まずはその第一歩となる本作を、日本のみなさんにも劇場でってことですね。
園 なんだかカルトでマニアックな作品だと誤解されていそうですけど、本当はディズニー映画よりも間口の広い作品。ディズニーだと、お父さんおじいさんが退屈するけど、こっちには色っぽい女があちこちに出てきてそういう気配りもちゃんとしてる。「今日はディズニーランド行こうか」ぐらいの気持ちで三世代そろって来ていただいて、コーラをガブ飲みしながら、1時間半を楽しんでほしい。そういう作品になっていると思っています。
(取材・文/鈴木長月)
▽園子温
1961年、愛知県生まれ。17歳で詩人としてデビュー。ぴあフィルムフェスティバルでのグランプリ獲得を契機にインディーズシーンで注目を集め、01年の『自殺サークル』で商業映画デビュー。以降も『紀子の食卓』や『愛のむきだし』、『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』などで国内外の映画祭を席巻。同業者にも数多くのファンを持つ人気監督の一人となる。本作以降も、ハリウッドでの企画がすでに進行中。
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