【前編はこちら】『カメ止め』上田慎一郎監督が構想10年“異色”の最新作を語る「今までにない映画を作りたい」
【写真】最新作は奇想天外のエンタメ作品、上田慎一郎監督
――初めて映画実験レーベル「Cinema Lab」(※「自由に映画を創る」というスローガンのもと、本広克行、押井守、小中和哉、上田慎一郎と4名の映画監督が設立)のお話があったときは、どう思いましたか?
上田 素直に「いいじゃん」って思いました。Cinema Labのお話自体は『カメ止め』公開前からあったんです。その時点では、そこまで具体化はされていなかったんですけど、「こういうレーベルを作る」というのを本広さんに聞いて。最初はこのレーベルで『カメ止め2』を作ろうというお話だったんです。
――そうだったんですね!
上田 その時点で『カメ止め』は、イベント上映はしていたんですけど、本公開はまだという時期でした。それで本広さんから、「『カメ止め』は面白いけど、多くの人に知られないで終わっていく可能性もあるから、『カメ止め2』を作ってみるのはどう?」みたいに提案をいただいたんです。ところが『カメ止め』が大ヒットしたので、続編を映画実験レーベルでやるのはおかしいと(笑)。それで違う企画をということで『ポプラン』を出しました。
――『ポプラン』は実験的な要素もありつつ、誰もが楽しめるエンタメ作品になっていますよね。
上田 そう言っていただけると嬉しいですね。
――上田監督の中で、どういうところが“実験”だったのでしょうか。
上田 今までの自分にはない要素を盛り込みました。『カメ止め』にしても、『スペシャルアクターズ』(2019年)にしても、チーム物で明るいコメディーなんです。『ポプラン』にもコメディーの要素はありますが、ひたすら明るいコメディーとはいえないトーンですよね。一人の主人公を追いながら、コメディー要素に抑制を効かせた渋みのある映画です。
でも渋さとは相反するポプランを失うプロット。この2つが一緒になるのかというのが、自分の中では実験であり挑戦でしたね。
――確かにプロットは突飛ですけど、家族で見ても違和感のない温かみのある作品ですよね。『ポプラン』はコロナ禍での撮影でしたが、いろいろ制限もあったかと思います。
上田 2020年9月にクランクインして、コロナ対策をしながらの撮影でした。本来のスピード感を出せないですし、コミュニケーションも取りにくいんです。昼食も黙食なので、それまでお昼にごはんを食べながら「次の撮影はどうする?」ってコミュニケーションを取っていたのができなくなって……。それがボディーブローのように効いてくるんですよね。
――多少なりとも状況は良くなりましたか?
上田 現場でのコロナ対策に関しては、それほど状況は変わらないのですが、だいぶスケジュールなどは組みやすくなりました。ただ意外と大きな問題が、作品にコロナ禍を反映させるかどうかなんです。マスクをしていないことがファンタジーだから、リアリティーのある映画であればあるほど、コロナ禍のない世界ってパラレルワールドみたいになっちゃうんです。
なので、この前作った『100日間生きたワニ』(2021年)も、コロナ禍の状況を見ながら脚本を書き換えました。まるまるコロナ禍を反映させるまではいかなくても、現実と地続き感がなくなってしまわないように調整したんです。ただ、今、映画館で当たっている映画はコロナ禍が反映していない明るい映画が多いですよね。みんな現実に疲れて、映画館に夢を見に行きたいというムードもあるので、そこは僕らも日々探りながら考えていますね。
――上田監督も参加されたアンソロジー映画『DIVOC-12』(2021年)もコロナに立ち向かいながら、若いクリエイターにチャンスを与えて支援するという試みでした。その中で上田監督が手がけた『ユメミの半生』も、コロナ禍が反映された作品でした。
上田 映画館が閉館になってしまうという設定がコロナ禍を感じさせつつ、コロナ禍だからこそバーチャルプロダクション(※3DCGなどを駆使して、スタジオ内でロケーションをしているような映像を作り出す技術)を採用しました。
実はもっとコロナ禍を反映させた脚本だったんですけど、そんな現実をお客さんは見たくないのかなと思いましたし、10年後、20年後見たときに普遍性がなくなるだろうと考えて、迷った末に今の形になりました。『ポプラン』に関しては、コロナ禍を反映させる必要のない作品でしたけど、それだけに街中での撮影でマスクをした人が映らないようにするのは大変でした。
――最後に改めて『ポプラン』の見所を教えてください。
上田 あらすじだけ聞くとキワモノだと思うかもしれません、おそらく想像とは違う映画になっていますので、ぜひ映画館で見て、いろんな感想を聞かせてください!